中小企業診断士のリアル

この度『タイプ別 中小企業診断士のリアル』という書籍を刊行した。社会人の人気ナンバー1資格でありながら謎に包まれている中小企業診断士(以下、診断士)について、「資格取得が最終ゴール型」「企業内診断士・自己啓発型」「企業内診断士・副業型」「プロコン・C型」「プロコン・D型」の5タイプに分けて、活動実態、メリット・デメリット、活動のポイントを紹介している。類書と違ってネガティブな側面を含めて診断士の“リアル”を書いているので、是非お読みいただきたい。

今回、診断士に関する書籍を書こうと思った理由は2つ。一つは、いま診断士の制度改革が進められており、診断士の実態をたくさんの人に知って欲しいこと、もう一つは診断士という資格が有効活用されていない実態が変わって欲しいという願いである。

後者について少し補足しよう。診断士というと、「中小企業の経営の困りごとの相談役」というイメージをお持ちの方が多いかもしれない。しかし、実態はまったく異なる。

約2万8千人の診断士の7割は資格取得後も企業内にとどまり(いわゆる企業内診断士)、その多くが資格を取ったら最後、公的支援・コンサルティング・研修といった診断士としての業務をしていない。つまり上記の分類だと「資格取得が最終ゴール型」や「企業内診断士・自己啓発型」である。診断士はよく「大企業サラリーマンの箔付け資格」と言われる通りだ。

また、コンサルタントとして独立開業している残り3割の診断士、いわゆるプロコンの大半は「プロコン・C型」である。C型というのは私の造語で、公的支援機関や地縁・血縁とのコネ(connection)で受注し、中小企業(chusho kigyo)・零細企業を支援している。ただ、独立開業といっても企業を定年退職した高齢者がコンサルタントを名乗り、ボランティア的に補助金の申請支援など公的支援を手伝っている程度だ。

近年、「とくにかく中小企業を助けろ」という国の掛け声で、ものづくり補助金や事業再構築補助金など公的支援策が続々と導入され、プロコン・C型は中小企業の補助金申請を支援するのに大わらわだ。「コンサルティング=補助金申請支援」となっており、中小企業の現場で汗をかき、補助金以外のことで経営者の相談に乗っているという診断士は、逆に少なくなっているのが現実だ。

税金で困りごとがあったら、税理士に相談する。法律で困りごとがあったら、弁護士に相談する。それに対し中小企業の経営者が経営で困っても、「診断士に相談しよう!」とはならない。税理士約7万人、弁護士約4万人と比べて診断士は総数が少ない上、大半の診断士が補助金申請支援以外はほぼ何もしていないのだから、当然だろう。現在、こうした現状を変えようと中小企業庁が診断士制度の改革を検討しており、今後の成果を期待したい。

ところで、税理士や弁護士と違って診断士には独占業務(資格保有者しか担当できない業務)がなく、診断士資格は「企業経営の専門的知識を有することを証明する」に過ぎない。そのため「診断士にいったい価値があるのか」という疑問の声や「診断士は足の裏に付いた米粒(取りたいが取っても食えない)」という諦めの声をよく耳にする。

私は、診断士資格の価値を「人生を変えるきっかけ」だと考える。診断士を取り、コンサルタントとして活動することで、新しい知識が増え、業務の範囲が広がり、新しい人と出会う。とくに、知識・経験が豊富な他の診断士と仲間になることが、大きな変化だ。こうした変化をチャンスと捉えて、人生の舞台を広げて大活躍している診断士がいる(もちろん「資格取得が最終ゴール型」のように広がらない診断士の方が多数派)。

普通の会社員は、決まった場所で決まったメンバーと一緒に決まった仕事をする。それは安定している反面、刺激と成長があまりない。一方、診断士を取得し、新しい知識を生かして新しい人と一緒に新しいことに取り組むというのは、なかなか大変なことだが、刺激と成長に満ちあふれている。

成長して何かを成し遂げたいという意欲を持つ人にとって、診断士は人生を変える価値のある資格だと思う。本書では、診断士がどう活動しているか、どう人生を変えているのかを紹介しているので、是非とも参考にしていただきたい。

 

(2021年4月19日、日沖健)