韓国と日本ではどちらが暮らしやすいか?

知り合いになった韓国人・朴さんと初めてゆっくりお話しをした。韓国の現状や日韓の違いがよく分かって面白かったので、かいつまんで紹介しよう。

現在38歳の朴さんは、大学卒業後韓国で中堅メーカーに就職したが、退職し6年前から日本に来て、大手エンジニアリング会社に勤務している。韓国では良い転職先が見つからず、日本に来たという。

私が日本石油(現ENEOS)を辞めてコンサルタントを始めたと話すと、「日沖さんは分別のある人だと思っていたので意外です」と言われた。韓国人にとってサムソンに就職できるかどうかがすべてで、サムソンに入社したら自ら辞めることはない。サムソンの入社試験の倍率は数百倍で、サムソンに特化した就職予備校がある。ENEOSはサムソンほど優れた企業ではないが、大企業社員の座を自ら手放すのは、「アホなやっちゃ」となるらしい。

私のことはともかく、いま東大生には大企業よりも外資系コンサルティング会社の方が人気ある。サムソンに就職することが「唯一の正しい生き方」となっている韓国と比べて、日本の方が働く人の価値観や働き方は多様性があるようだ。

韓国では、少子化がどんどん進行し、2020年の合計特殊出生率は0.84という絶望的な状態になっている(日本は20191.36)。この状況について朴さんは「原因ははっきりしています。教育費と住宅費の高さ、そしてサムソンのせいです」と明言した。

サムソンに入社するにはソウル大学か延世大学に入学する必要があり、小学校の頃から塾通いをしなければならない。ソウルでは小学生の7割以上が塾通いをし、中学生なら週6日通うのが普通だ。また、主要企業もソウル大学も延世大学もソウル市や近郊にあるので、ソウルの住宅価格は高騰し続けている。ソウルで住居を取得し、子供を産み、育てるのは至難の業になっている。

日本でも東京一極集中が指摘されて久しいが、京都大学が京都府に、トヨタが愛知県にあるように、そこまで東京オンリーではない。朴さんは「私も3年間ソウル近郊に住んだことがありますが、いまの東京の暮らしの方がはるかに快適です。ソウルに戻るのはちょっとお断りですね」と言う。

ただし、ジェンダーに関しては韓国の方が進んでいて、「女性は韓国の方が暮らしやすいかもしれません」と朴さんは言う。儒教の影響で年長の男性が尊重されるというイメージが強い韓国だが、いまどき男尊女卑の男性は結婚できない。韓国の家庭では、女性の発言権がどんどん強まっているという。朴槿恵大統領が誕生した通り、政治でも韓国の方が女性の活躍が進んでいるようだ。

といった朴さんの話を聞いて、率直に「日本に生まれて良かった」と感じた。と同時に「まあ、日本も韓国も低いレベルでよく似ているな」とも思った。

たとえばアメリカでは、ITエンジニア・クリエイター・起業家・投資家など色々な生き方が尊重されている。人口はいまも増え続けている。金融はニューヨーク、政治はワシントン、ITはカリフォルニアと分散している。女性の活躍も進んでいる(北欧諸国ほどではないが)。アメリカと比べたら、日本も韓国も五十歩百歩というところだ。

このところ週刊誌などメディアでは、韓国の問題点を指摘する記事が人気だ。それだけ韓国が嫌いで、韓国を叩いて留飲を下げたいという日本人が多いということだろう。隣国であり、同盟国である韓国のことを知るのは大切だが、目糞鼻糞を笑うという愚かな状態にならないよう戒めたいものである。

 

(2021年3月22日、日沖健)