日本にプロの経営者は馴染まないのか

台湾茶専門店・ゴンチャジャパンの原田泳幸会長兼社長が辞任した。理由は「一身上の都合」とのことだが、原田氏は妻にゴルフクラブを使って暴力を働いたとして、警視庁に今月逮捕され、東京簡裁から傷害罪で罰金30万円の略式命令を受けており、その責任を取ったものと思われる。

原田氏は、アップルコンピュータを皮切りに、マクドナルド、ベネッセ、そしてゴンチャの経営者を歴任し、日本を代表する「プロの経営者」と言われた。その原田氏の残念なキャリアの終幕は、日本におけるプロの経営者の難しさを痛感させる。

ネットでは、今回の件を受けて原田氏、さらにプロの経営者へのバッシングが吹き荒れた。

「マクドナルドもベネッセも、原田のせいで大混乱に陥った。疫病神の原田を経営者に迎える企業があったのが、そもそも謎だ」

「ゴルフクラブで暴行って、経営者以前に人間としておかしい。こんな男が日本を代表するプロの経営者とは笑わせる。日本のプロの経営者はレベルが低い」

「原田もそうだし、日産のカルロス・ゴーンも、プロの経営者はリストラで短期的に利益を絞り出すだけ。日本企業にプロの経営者は馴染まない」

こうした批判のうち、原田氏個人に関する部分はうなずける。人間性はさておき、マクドナルドではマーケティング戦略が迷走し、ベネッセでは情報漏洩事件の対応を誤り、経営者の座を追われている。話題を振りまく派手な存在だったが、経営者としての手腕には疑問符が付いた。

日本のプロの経営者が諸外国と比べて低レベルだというのも、平均値としては事実だろう(知り合いのプロの経営者の方々には申し訳ないが)。その昔、優秀な学生は競って中央省庁や金融機関に就職し、同じ組織の中で内部昇進でキャリアを形成した。外資系企業に就職し、転職を繰り返してキャリアアップするというのは、相当な変わり者だった。優秀な人材がプロの経営者になるのは、これからだろう。

ただ、日本にはプロの経営者は馴染まないという最後の指摘には、賛同できない。日本で以前はプロの経営者が少なかったのは、経営環境が安定的で、内部昇進の社長を中心に組織が一丸となって活動することが重要だったためだ。最近プロの経営者が増えているのは、経営環境が厳しくなり、大きな経営改革を必要としているからだろう。時代がプロの経営者を必要としている。

プロの経営者に対しては、「リストラ=人減らし」による経営改革がよくやり玉にあがる。しかし、社外から経営者を迎えるのは危機的な状況の会社。会社を立て直すためにまずリストラで止血するのは、当然のことだ。内部昇進の経営者は、リストラが必要だと分かっていても、同じ釜の飯を食ってきた仲間に非情になれず、その当然のことができていない。プロの経営者は、内部昇進の経営者が嫌がる汚れ役を担っていると言えよう。

もちろん、リストラによる経営改善の効果は長続きしない。リストラで終わってはダメで、プロの経営者は、企業が長期的に発展できるよう、事業・組織の仕組み(ストラクチャー)を抜本的に変える真のリストラクチャリングを推進する必要がある。

日本にプロの経営者が必要で、いま不足し、低レベルだというなら、今後プロの経営者を育成していく必要があるだろう。ゴーン氏や原田氏の失敗を以て「日本にプロの経営者は必要ない」という意見にならないようにしたいものである。

 

(2021年3月1日、日沖健)