理論・フレームワークを学ぼう

このたび『経営戦略がわかる セオリー・フレームワーク53』と題するビジネス書を刊行した。経営戦略にはさまざまなセオリー(理論)・フレームワークがあり、実務で活用されている。そのうち代表的なもの53をコンパクトかつ実践的に解説している。是非お読みいただきたい。

こういう本を刊行するのは、世の中に「基本的な理論・フレームワークを学びたい!」というニーズがあるわけだ。ところが、基本的な理論・フレームワークを批判的に捉える向きもある。

まず、コンサルタントなど専門家からは、「そのフレームワークは古い」と嚙みつかれる。代表的な理論・フレームワーク、たとえば消費者の購買行動を説明するAIDMAAttention認知→Interest興味→Desire欲求→Memory記憶→Action行動)を紹介すると「ネットの時代にはAISASだ」、事業管理プロセスのPDCAPlan計画→Do実行→Check評価→Act改善)を紹介すると「これからの変化の時代にはOODAだ」という具合だ。

たしかに、AIDMA1920年代、PDCA1940年代に提唱されたフレームワークで、古い。しかし、ネットショッピングが普及しようと、AIの時代になろうと、認知してから購買する、計画を作って実行するといった人間の行動様式はそんなに変わらない。「古い!」と切り捨てるのではなく、まず歴史の風雪に耐えた基本的なフレームワークを知り、それを個別の状況に当てはめて応用していくべきではないだろうか。

それよりも気になるのは、経営者など企業関係者の多くが理論・フレームワークの価値を否定することだ。「ビジネスは実践だ。横文字の理論・フレームワークは現場で役に立たない」「自分の頭で考えることが大切だ。フレームワークに頼ると、考える力が失われてしまう」という指摘をよくいただく。

「ビジネスは実践」「自分の頭で考えることが大切」という部分は、まったくその通りだ。ただ、理論・フレームワークはそれだけでビジネスの複雑な状況を分析したり、意思決定するものではない。あくまでも、考えるきっかけを作る道具であり、良い道具は使った方が良いと思うのだ。

たとえば、起業家がラーメン店を開業するとしよう。彼が企業経営について無知でも、開業資金や調理技術(自社Company)を確認し、どの立地でどういう客を狙っていくか(市場・顧客Customer)を考えるだろう。ここで彼が3CCompanyCustomerCompetitor)というフレームワークを知っていれば、近隣の競合店とどう差別化するべきか(競合Competitor)についても深く考えるだろう。3Cを知ることで、成功確率が高まるはずだ。

世の中には、何のきっかけがなくても、ゼロから重要なことを漏れなく深く考えることができるという天才肌の人がいる。そういう天才は、フレームワークを使うとかえって思考が制約されてしまうかもしれない。

しかし、特殊な才能を持たない大半の人は、偉大な先人が考え、多くの人が試したフレームワークを使うことによって、より良い思考ができるだろう。もちろん、フレームワークはあくまできっかけであって、それで終わりにせず、自分なりに考えを発展させることが大切だ。

昔は「横文字のフレームワークなんて糞くらえ」「俺はビジネス書を読まない」と言い放つ豪傑タイプ(天才かどうかは別にして)が多かった。最近は、「とりあえず基本は押さえておこう」という優等生タイプが増えている。それは良いことだが、基本を押さえた後に自分なりに発展的に深く考えるというタイプは少ない印象だ。本書によって発展的に深く考えるというタイプが増えるようになるなら幸いである。

 

(2021年2月15日、日沖健)