コンサルティングとコロナにおける自責・他責

私がコンサルタントになって19年になる。コンサルティングが成功してクライアント企業が発展する場合もあれば、失敗し、衰退に拍車をかけてしまう場合もある。よく「私は成功率100%!」と豪語するコンサルタントがいるが、企業経営はそんなに甘くない。そういう“自称スーパーコンサルタント”は、①噓をついている、②ごく簡単な改善しか取り組んでいない、③経験が浅く今のところ幸運に恵まれている、のいずれかだろう。

私はいまだに試行錯誤が続いているのだが、試行錯誤を通してコンサルティングの成否を分けるポイントのようなものが見えてきた。それは、クライアントの経営者が自責的か、他責的か、という違いだ。経営の問題の原因や責任が自分にあると考えるのが自責、他人にあると考えるのが他責である。

よく、自社の経営の問題点、たとえば売上高の減少について、経営者が「従業員の顧客対応がなってない」「競合他社の安売り攻勢のせいだ」などと、自分以外に原因を求めることがある。こういう他責的な経営者にコンサルタントがあれやこれやと提案・アドバイスしても、なかなか受け付けてもらえない。たいていコンサルティングは失敗する。

一方、「私の従業員教育が不十分だった」「私の市場の見通しが甘かった」と自分に目を向け、自分の過ちを率直に認める経営者がいる。こういう自責的な経営者は、コンサルタントの提案・アドバイスを受け入れて、改革に取り組む。結果として、コンサルティングが成功しやすい(成功の可能性が高まるだけで、絶対に成功するというわけではない)。

企業経営の問題は複雑で、原因がたくさんあるので、自責的にも他責的にも捉えることができる。どちらが正しいかはケースバイケースだ。ただ、問題を解決するには、自社の今までのやり方を否定し、改めなければならない。自責的な経営者は躊躇せずやり方を改めるが、他責的な経営者はやり方を否定しない範囲で、中途半端な改善しかしない。どちらが問題解決の成果を実現しやすいか、明らかだろう。

もちろん、経営者だけでなく、コンサルタントも他責的ではいけない。コンサルタントがクライアントに提案・アドバイスを受け入れてもらえなかったとき、「あの頑固な社長じゃ、会社が良くなるわけないよな」と匙を投げるようでは、成果が出るはずない。コンサルタントが「私の提言・アドバイスは、本当にクライアントの問題解決に貢献するのだろうか」と自責的に考えるとき、成果実現の可能性が高まる。

ところで、自責・他責というと気になるのが、新型コロナウィルスへの関係者の反応だ。いままさに関係者は、他者に責任を問う他責の状態になっている。

国民は3密回避など対策を徹底せず、政府を「対応が不十分だ、遅すぎる」と批判する。政府は法整備など対策を行わず、東京都などに「12月から時短していれば事態は悪化しなかった」と責任転嫁している。日本医師会・東京医師会はコロナ患者の受け入れを増やす努力を怠り、国民に「真剣勝負だ、気が緩んでいるぞ」と警鐘を鳴らし続ける。

コンサルティングもコロナ感染対策も、問題解決という点は同じだ。関係者が他責的だとコンサルティングがうまく行かないのと同じように、コロナと関係する人たちが他責的になっている状況で、感染対策がうまく行くとは思えない。まずは関係者各々が、自分たちができることから始める必要があるだろう。

さらにマスコミの活躍を期待したい。SNSで誰でも匿名で発信できる現代社会では、どうしても世論が他人に対して攻撃的になりやすい。社会に影響力のある大手マスコミが犯人捜し的な報道を控え、データ・数字を使ってコロナの実態を冷静に報道すれば、他責的な世論が大きく変わっていくように思う。おっと、マスコミに責任を押して付けてはいけない…。

 

(2021年1月25日、日沖健)