緊急事態宣言の再発出は危険

お屠蘇気分も抜けない1月2日、小池百合子東京都知事ら首都圏の4知事が新型コロナウイルスの感染拡大について政府に緊急事態宣言の発出を要請した。東京都では先月31日に感染の確認が初めて1,000人を超え、感染拡大に歯止めがかからない状況で、今回の政府への要請になった。

今回の第3波だけでなく、昨年7~8月の第2波でも緊急事態宣言の発出を求める国民の声が多かった通り、緊急事態宣言はコロナ対策の切り札と崇められている。しかし、緊急事態宣言を再発出しても、プラス効果よりマイナス効果の方がはるかに大きく、まったく無意味、というより危険だろう(前回も相当なマイナスだったが)。

前回4月7日に緊急事態宣言が発令され、国民・企業は不自由な自粛を強いられた。第1波はやがて収まり、それから9カ月経って、緊急事態宣言とコロナについて、以下のことがわかっている。

    緊急事態宣言発令前の3月31日をピークに感染は減少に転じており、緊急事態宣言は第1波の終息にほとんど役立たなかった。

    緊急事態宣言による自粛生活で経済は大打撃を受けた。国からの補償はわずかで、多くの国民・零細事業者が困窮した。

    コロナは毎年のインフルエンザと比べて感染力・致死力が弱く、高齢者や基礎疾患を持つ病人以外には、さほど大きな脅威ではない。

    マスク・手洗い・3密回避の3つで、コロナ感染をかなり抑制できる。

以上が正しいとして、仮に前回並みの全国的な緊急事態宣言を再発出したら、どういうことになるだろうか。

高齢者や基礎疾患を持つ病人は、自粛を受け入れるだろう。しかし、現役世代は、感染リスクが低い上、生活のために仕事をしなければならないので、自粛を受け入れがたい。「ずっと家に閉じこもっていなくても、ちゃんとマスクすれば良いんでしょ」ということで、自粛は前回よりもかなり不徹底になってしまう。したがって、緊急事態宣言によって感染が終息することは、あまり期待できない。

一方、緊急事態宣言を支持する人たちが考えていないのが、企業の対応である。企業は、マスコミや世間(自粛警察)の目に晒されているので、国からの要請に全面的に従って事業活動を厳しく制限せざるを得ない。飲食や旅行だけでなく、幅広い業種に悪影響が及び、経済への打撃は前回並みの大きさになる可能性がある。

つまり、緊急事態宣言を発令しても、コロナは終息せず、経済は大打撃を受ける。総合的には、日本をコロナから救うどころか、「緊急事態」から「破滅的事態」へと追い込んでしまうのだ。

国や自治体が取るべき対応は、病床の確保や会食の制限である。国民のやるべきことは、マスク・手洗い・3密回避の徹底である。「その程度の対策では死者が減らないぞ」という方は、「人はコロナ以外でも色々な原因で死ぬ」という当然の事実を思い起こすべきだ。1年以上経っても死者が4,000人に満たないコロナのために日本という国を「破滅的事態」に追い込むというのは、どうしても納得できないのである。

さて、ここからは、私の憶測。

今回、一地方自治体の首長に過ぎない小池都知事が国に緊急事態宣言を要請するのは、コロナ対策もさることながら、今後の政局をにらんで、菅政権をゆさぶり、「行動する小池都知事」「動かない菅首相」というイメージを国民に植え付けたいからだろう。

コロナ対策やオリンピックが失敗に終われば、菅首相は求心力を失い、9~10月に予定される衆院選で自民党は菅・二階の主流派と反主流派の分裂含みになる。ここで、岸田も石破も頼りにならない反主流派は、国民の待望論を受け、「選挙の顔」として小池都知事を担ぐ。そして10月、日本初の女性首相が誕生する…。

権力欲に取り憑かれた策士の小池都知事なら、この程度のシナリオは十分に考えているのではないだろうか。もしこの私の憶測が正しいとしたら、国民にとってはとんだ初夢(悪夢)である。

 

(2021年1月4日、日沖健)