なぜセ・リーグはJ2になってしまったのか

今年のプロ野球日本シリーズが終わり、ソフトバンクが4年連続の日本一に輝いた。昨年に続いて巨人との対戦で、昨年と同じ4勝0敗だった。

絶対的エース・菅野を擁する巨人は、圧倒的な強さでセ・リーグを制し、日本シリーズでも「今年はやってくれるだろう」と期待が高かった。ところが、蓋を開けてみると攻守に精彩を欠き、ソフトバンクの強さばかりが目立った。

これで日本シリーズは、8年連続でパ・リーグのチームが制している。春の交流戦でも、ほぼ毎年パ・リーグが大きく勝ち越している。これらの事実を素直に解釈すると、ソフトバンクだけが強いわけでなく、全体的にパ・リーグの方がセ・リーグよりもハイレベルということになる。サッカー・Jリーグに例えると、パ・リーグがJ1、セ・リーグがJ2という位置付けだ。

昭和の時代は、セ・リーグ、とくに巨人にテレビ放映が偏っていたので、有力なアマ選手は競って巨人への入団を希望し、結果的にセ・リーグの方が強かった。いまは、テレビ放映が両リーグに分散し、ドラフト改革も進んだので、選手の獲得についてセパで条件の差はないはずだ。にもかかわらず、これだけ明確に成績の差が出ているのは、なぜだろうか。

私はもちろん野球の専門家ではないが、思い当たる理由が2つある。

一つは、球団の資金力である。セ・リーグは、新聞社2(巨人・中日)、電鉄(阪神)、ITDeNA)、飲料(ヤクルト)、そして市民球団(広島)という構成で、DeNAを除くとオールドエコノミーばかりで、資金力がない。一方、パ・リーグは、通信・IT(ソフトバンク)、食品2(ロッテ、日本ハム)、Eコマース(楽天)、電鉄(西武)、金融(オリックス)という構成で、オールドエコノミーの割合が低く、資金力がある。

プロ野球は、選手の人件費や練習環境の整備など、莫大な金のかかるビジネスだ。資金力のない広島が独自の選手育成で奮闘していることには敬意を表したいが、やはり資金力のあるパ・リーグの方が、圧倒的に有利だろう。

もう一つは、指名打者制の影響である。今回、巨人打線は4試合で合計16安打しか打てず、日本シリーズ史上、最少の安打数という貧打だった。それだけソフトバンクの投手力が凄かったということだが、これはパ・リーグが指名打者制を採用していることが好影響を与えていると思う。

セ・リーグは、投手が打席に立つので、投手は9人のバッターのうち1人簡単にアウトをとることができる。3回に1度息抜きできるわけだ。一方、パ・リーグの投手は、9人全員に真剣勝負をしなければならず、試合終了まで息抜きできない。9人のうち1人というと11%。セ・リーグの投手は、パ・リーグの投手よりも常に11%楽をしていることになる。セ・リーグの投手は、楽な状態を続けているうち、腕がなまってしまったのだろう。

以上の推測が正しいとすれば、セ・リーグを復権させる方策は2つ。一つは、選手に十分な給料を払えない貧乏球団は球団経営から身を引いてもらうこと、もう一つは、指名打者制を採用することだ。

ところで以上のことは、低迷する日本経済を立て直すヒントになる。日本では、従業員に満足な給料を払わず、低賃金に依存して生き延びている限界企業が多いが、さっさと退出してもらった方が良い。また、競争を制限する規制がまだまだはびこっているが、思い切って撤廃するべきだ。

通信・ITが新聞社を圧倒した今年の日本シリーズ。時代の変化を感じざるをえないところである。

 

(2020年11月30日、日沖健)