SWOT分析を巡る問題点<下>

企業経営で使われるフレームワークの中で最も有名なのが、SWOT分析。先週に続き、SWOTを巡る問題点について考えてみよう。

私はコンサルタントや研修講師という立場でこれまで1,000以上のSWOT分析を見てきたが、「これはスゴイ!」と思ったのは50に満たない。95%以上のSWOT分析の何がいけないかと言うと、一言「発見がない」ということだ。すでにわかっていることを整理しているだけで、「わが社にはこんな強みがあったんだ!」「こういう事業機会があったんだ!」という発見がない。

では、発見をするためにどうすれば良いのか。一つは改めて社内の実態調査をすること、もう一つはマクロ環境のトレンドを調べることだ。今回は後者について考えてみよう。

どんな起業家でも、事業を始めるとき3Cを調べる。Company(自社)「美味しいラーメンを作るスキルはあるか?」、Customer(市場・顧客)「どこに出店しようか、家族層をターゲットにしようか?」、Competitor(業界・競合)「競合とどういう違いを出そうか?」などだ。ところがマクロ環境には、「関係ないでしょ」ということであまり注目しない。

マクロ環境とは、企業から見て統制不可能な外部環境のことで、PESTに代表される。PESTとは、Politics(政治・法規制)Economy(経済)Society(社会)Technology(技術)である。世の中の大きなトレンドは、3Cではなく、PESTの変化によって生まれる。

たとえば、日本では2000年以降、中古品の流通市場が急拡大し、ブックオフ、ヤフオク、メリカリ、テンポスバスターズなど様々な中古品ビジネスが躍進している。その原因として、この時期の次のようなPESTの変化がある。

l  Politics:各種リサイクル法制定、古物営業法改正

l  Economy:デフレ、所得低下

l  Society:エコ意識、実質主義的な考え方

l  Technology:耐久性向上、ICT

 中でもとくに見落としがちなのが、Societyの変化である。私たちは、携帯電話の料金引き下げといった政治要因やDXのような新技術にだけ注目するが、社会の価値観の変化にも注目する必要がある。中古品市場の例からも明らかなように、太古の昔からある市場でも、価値観の変化が大きな事業機会をもたらすのだ。

企業経営には色々な成功の法則があるが、1つだけ最も大切なものを挙げろと言われたら、「マクロのトレンドに乗ったビジネスをやる、トレンドに逆らったビジネスはやらない」と力説したい。

バブル期の不動産会社は、相当いかれた経営者が手抜き経営をしても、大きな利益を上げることができた。脱炭素が叫ばれている現代日本において石炭会社は、どんなに天才的な経営者が死ぬ気で努力しても、利益を上げるのは難しい。なお、ここで言うトレンドは、1~2年で終わってしまう「流行」ではなく、最低10年以上続く「潮流」を意味している。

日本では、「歯を食いしばって頑張れば、どんな分野のビジネスでも道は開ける」と頑なに考えがちだが、そうではない。冷静にマクロ環境を分析し、トレンドに合った事業をやる、合わない事業から手を引くということを実践する必要がある。

以上2回に渡ってSWOT分析について見てきた。SWOT分析は有名だが、職場でも個人でも、あまり有効活用されていない。コロナなど環境変化の激しい時代だからこそ、SWOT分析をしっかり活用したいものである。

 

(2020年11月23日、日沖健)