岐路に立つ日本企業のイノベーション

新型コロナウィルスを受けてこの半年間、日本企業の事業活動は大きく変わった。中でも、企業によって大きな違いが出ているのが、イノベーション(革新)である。

今年は、日本も世界もコロナ一色。しかし、少し視野を広げると、AI化、デジタルトランスフォーメーション(DX)、人口減少、地球環境問題、貧困問題などさまざまな変化が起こっている。こうした変化は、企業に機会と脅威をもたらしている。とりわけコロナで人との接触が制限される状況で、DXの推進が叫ばれている。

 GAFAGoogle, Amazon, Facebook, Apple)などアメリカのIT企業は、コロナをDXビジネス拡大の好機と捉えてイノベーションを加速させている。日本でも、インターネット広告のサイバーエージェントは、緊急事態宣言が発令されていた4月に、DXに対応した新規事業を推進する新会社MG-DXOENを設立した。MG-DXはドラッグストアのオンラインによる診療や服薬指導などのDXを支援する。OENはコンサートなどリアルイベントの中止で打撃を受けているエンターテインメント産業向けに、デジタルシフトやオンラインでの収益化をサポートする。

ただ日本では、サイバーエージェントのように変化を「機会」と捉える前向きな企業は例外的。大半の企業にとって、変化は既存の事業を脅かす「脅威」になっている。そして、コロナによって、イノベーション創造の活動が大幅な後退を余儀なくされている。コロナは、日本企業のイノベーションに2つの悪影響を与えている。

一つは、研修開発予算の縮小である。売上高急減に対応したコスト削減で、研究開発も「不要不急」として削減の対象になった。予算が減った研究開発部門では、各事業部門から委託された試験分析などを細々と続けるだけで、自主的・前向きなテーマは中断されている。

もう一つは、新結合の停滞である。経済学者シュムペーターがイノベーションの本質を「新結合の遂行」と指摘した通り、知識・情報・ノウハウが今までと違った結合をすることでイノベーションは生まれる。春以降、コロナで他人との物理的な接触が制約され、新結合の活動が停滞した。

この状況で、企業はどのようにイノベーションを創造すれば良いのだろうか。何より大切なのは、経営者がイノベーションの明確な長期方針を出し、従業員とコンセンサスを得ることだ。仮に当面は従業員にコスト削減で耐えてもらうとしても、「いずれ元に戻るだろうから、とにかく今は我慢してくれ」と懇願するのではなく、いつまで耐えるのか、どういう状態になったら活動を本格再開するのかを明示するべきだ。

研究開発部門の責任者やマネジャーにも、限られた研究開発予算を有効活用するために、研究テーマを重点化する必要がある。有望なテーマにリソースを重点配分し、有望でないテーマを思い切って中止する。そのためには、責任者・マネジャーには、これまで以上に市場性を含めた技術の目利きが欠かせない。

また、物理的な接触が制限される中、新結合をどう進めるかも、大きな課題である。実はイノベーションで最先端を行く企業の間でも、Facebookはオンラインで進める一方、Googleはリアルで小集団活動を進めることを重視するなど、対応はまちまちだ。研究開発部門の責任者・マネジャーは、他社のやり方を参考にしつつ、自社の事業・技術に合った新結合の進め方を確立する必要がある。

コロナでイノベーションがさらに停滞してしまうのか、斬新なイノベーションで世界で戦う企業になるのか、日本企業は正念場を迎えていると言えるだろう。

 

(2020年10月26日)