東証はシステム障害を改革の契機に

10月1日に東京証券取引所(東証)でシステム障害が発生し、終日全銘柄の取引を停止するという前代未聞の事態に陥った。

直接の原因は、取引処理システム「アローヘッド」のメモリーの故障のようだ。ただ、システム障害が発生したらバックアップシステムに切り替わるはずなのだが、今回はバックアップへの切り替えが作動しなかったという。こちらの原因は、執筆時点では不明である。東証とシステムを納入している富士通には、早期に原因を究明し、対策を講じて欲しいものである。

また、東証はトラブルを知ってから取引停止を決定するのに5時間も要したらしい。トラブル発生の投資家などへのアナウンスも、緩慢かつ不徹底だった。これらは、東証が組織として機能不全に陥っていることが疑われるものだ。「富士通のせい」で済ませず、東証自身の改革も進めて欲しいものである。

いま多くの日本企業が改革を迫られているが、東証ほど抜本的な改革を迫られている企業はないだろう。

証券取引所は、単に国民の財産である株式を売買する場というだけでなく、金融ビジネスの中核になるインフラだ。若い労働者が激減する一方、1,883兆円(6月末現在)という膨大な金融資産を持つ日本では、若い労働力を必要とする製造業やサービス業よりも、お金に働いてもらう金融業、とりわけ資産運用が有望なビジネスだ。証券取引所の活性化は、日本の将来を左右する重要課題である。

東証は、ニューヨーク・ロンドンと並ぶ世界3大市場と称されるが、1990年以降の日本経済の長期停滞の影響を受けて、地盤沈下している。中国が株式市場の開放に及び腰なので、何とかアジア1の座を維持しているものの、成長するアジアに位置し、先進国では一日の最初に開場するという市場としての圧倒的な優位性を生かせていない。中国が株式市場の育成・開放に乗り出す前に、早急に抜本的な改革を進めて生まれ変わりたいところだ。

東証は近年、上場企業のコーポレートガバナンス強化、HFT(高速取引)に対応したシステムの強化(今回味噌をつけたが)、新興市場の育成などさまざまな改革に取り組んできた。これらにさらに取り組む必要があるのだが、投資家にとって死活的に重要な割にほぼスルーされているのが、休場日数の削減である。

今回、システム障害で取引停止になり、期せずして10月1日が休場になったが、元々東証は世界の主要市場の中で中国に次いで休場日数が多い。日本は、中国に次いで祝日が多いからである。日本では、祝日が年間18日あり(2020年)、土日や年末年始も合わせると、休場が1年の3分の1を超える。

先週金曜日にトランプ大統領の新型コロナウィルス感染が報じられたことを受けて日経平均が急落したように、株式投資はさまざまなリスク(不確実性)を伴う。投資家にとって、リスクが発生した時に機動的に売って逃げることができないというのは、非常に不便だ。無駄に休場が多く、売買が成約されている東証は、投資家にとってあまり使いたくない市場である。

逆に、休場を減らせば世界の投資家にとって東証の魅力が大いに増すことになる。休日や夜間に自由に取引できるようにすることが、東証の競争力を強化する最も必要な改革であろう。

「あのシステム障害をきっかけに東証は生まれ変わった」と後々言われるよう、東証には期待したいものである。

 

(2020年10月5日、日沖健)