バフェットの変節は痛快だ

カリスマ投資家ウォーレン・バフェット(90)の変節が波紋を呼んでいる。

バフェットと言えば、バリュー株(割安株)投資。ジレットやコカ・コーラといった自分の頭で理解できる消費関連株に狙いを定め、リーマンショックのような混乱で株価が下がった時に思い切って投資し、一度買ったら一生保有し続ける―。バフェットは11歳で投資を始めて、このやり方で連戦連勝、2007年に長者番付で世界一になった。

そのバフェットが率いるバークシャー・ハサウェイの運用成績が、このところ低調だ。1960年代から50年以上に渡ってほぼ毎年、株式指数に勝ち続けてきたが、この5年間はS&P500を下回っている。今年も、保有するアップル株が絶好調なのに、他の投資が振るわず、苦戦が続いている。

結果が振るわないだけでなく、投資スタイルも大きく変わった。これまでバフェットは「金には金利もつかず、配当もないため、投資する意味はない」と明言していたのに、今年カナダの金採掘企業バリック・ゴールドに投資した。

8月下旬、日本の総合商社株を購入したことも話題を呼んでいる。総合商社は、日本にしかない特殊な業態。色々な事業に手を広げ、色々なところに投資し、関係者でも何をしているのかよくわからない。割安株ではあるものの、バフェットの「自分の頭で理解できる」という投資基準からは、およそかけ離れている。

こうした変節の結果、ポートフォリオも激変している。バークシャー・ハザワェイの資産全体のうち、20年以上保有する長期保有株は20%以下に減り、代わって2016年から購入し始めたアップルが44.2%に達している(6月末)。バフェットは、もはや長期投資家でもバリュー投資家でもなくなっている。

日本では、個人投資家を中心に「バフェットよ、どうしたんだ⁉」という戸惑いの声が広がっている。しかし、私は2つの点で、バフェットの変節を嬉しく思っている。

一つは、成功者が変節したという事実だ。人は過去の体験に囚われて、なかなか自分のやり方を変えることができない。とくに大きな成功体験があると、それにすがって生きようとする。世界一成功し、この830日で90歳を迎えたバフェットが、大成功した投資スタイルを捨て去ったのは、今後の成否はともかく、それ自体が素晴らしいことだ。

もう一つは、「なりきりバフェット」を黙らせてくれたことだ。日本にはバフェット・ファンが多いことから、「バフェット流投資術」といった投資本を出版し、セミナーを開催し、小銭稼ぎしている輩がたくさんいる。もちろん、バフェットの投資法を参考にするのは結構だが、虎の威を借りて商売しようという姿勢は、浅ましい。今回のバフェットの変節で、そういう「なりきりバフェット」がすっかり意気消沈しているのは、何とも痛快だ。

私は数々の偉大な投資家の中でも、バフェットが大好きだ。投資はもちろんだが、世界一の金持ちになってもハンバーガーを食べ、チェリーコークを飲んでいるという飾らない生き方が素晴らしい。その大好きなバフェットが、「成功体験を捨てる」という最もカッコ良い生き方を示し、「他人の成功に乗っかる」という最もカッコ悪い生き方をしている「なりきりバフェット」を沈黙させてくれた。

新型コロナウィルスを受けて、自分を見つめ直し、生き方を変えようとする人が増えているらしい。そういう人たちは、バフェットの変節を是非とも参考にして欲しいものである。

 

(2020年9月7日、日沖健)