真面目な投資家が悩む今日この頃

新型コロナウイルスの感染被害もどこ吹く風で、株式市場が堅調である。日経平均は3月19日に今年の安値16,359円まで落ち込んだが、それからV字回復し、69日に戻り高値23,185円を付けた(722日現在22,751円)。マザーズや米ナスダックのように、すでに年初来高値・史上最高値を力強く更新している市場もある。

何人かの知り合いの個人投資家に聞いたところ、今年の運用成績は二極分化している。ざっくり言うと「真面目な投資家」は運用成績が悪く、「不真面目な投資家」は好調だ。

「真面目な投資家」というのは、私の造語である。投資の重要な鉄則である「リスク管理を徹底せよ」「わからない時(わからない銘柄)には投資するな」という2つをしっかり守る、研究熱心で自己規律の高い投資家である。

「真面目な投資家」は、3月の相場急落を受けて、リスク回避のために保有株をいったん売却(損切り)した。そして、相場が落ち着いたら買いを入れようとしたのだが、思いのほか早く相場が回復し、買い遅れてしまった。過去の相場暴落の学習から「二番底がある」と思って待ち、緊急事態宣言の解除で「二番底はなさそう」と確認し6月から買いを入れた。鉄則を守った結果、「安く売って高く買う」という最悪パターンになってしまった。

「不真面目な投資家」は、その逆だ。3月の相場急落でリスク管理を怠り、「どうにかなるさ」と保有しつづけた。また、その時点で資金の余裕があった投資家は、「よくわからないけど、ここからさらに大きく下がることはないだろ」と買いを入れた。鉄則を守らずに投資したことが、功を奏した。

この悩ましい状況について、ある「真面目な投資家」(50代男性、会社役員)は、「今回はたまたまそういう結果になったが、後悔していない。長い目で見て勝つには、鉄則を守ることが大切だ」という意見だった。果たして、鉄則を守ることが正しいのだろうか。

さて、ここからは私の個人的な意見。2つの鉄則のうち「リスク管理を徹底せよ」は、守った方が良いと思う。今回は1月17日高値から32%の下落で済んだが、リーマンショックのように6割以上の暴落になると、致命傷を受け、一発退場・再起不能になってしまうかもしれない。相場の世界で生き残るには、一時的に相場を離れるのが得策だ。

しかし、もう一つの「わからない時(わからない銘柄)には投資するな」という鉄則については、前々から疑問に思っている。この鉄則は、多くの個人投資家が崇拝するウォーレン・バフェットやピーター・リンチというカリスマが実践してきたことで有名だが、個人投資家は、自分がバフェットやリンチと同じことを実践できると自惚れているのだろうか。

「わからない時(わからない銘柄)には投資するな」というのは、逆に「いまだ!(これだ!)と思ったら投資しろ」ということだ。バフェットやリンチのような天才、しかも専業のプロが「いまだ!」「これだ!」と気付くのはわかる。しかし、普通の個人投資家は、後になって「あのとき買うべきだった」「あの銘柄にすべきだった」と気づくに過ぎない。

普通の個人投資家には(ほとんどのプロも)、ベストのタイミングもベストの銘柄もわからない。とすれば、「よくわからない」という前提で賭けるべきだろう(あとインデックスを買うという方法もある)。もちろん、可能な限り事前の調査・分析をするが、すべてを解明しようとせず、適当なところで賭けに出る。ただ、賭けは外れに終わることが多いので、外れた場合のリスク管理を徹底する必要がある。

以上のことは、ビジネスの世界でも当てはまる。よく、新規事業を審査する会議で「この事業は絶対に大丈夫なのか」と延々と議論し、なかなか踏み出せない会社を見受ける。そして全員一致で「絶対に大丈夫」と判断した事業は、着手して失敗が明らかになっても、なかなか「撤退しよう」と言い出せず、ズルズルと傷口を広げてしまう。日本企業の新規事業を野球に例えると、1打数0安打である。いわば「少産少死」である。

やるべきことは、その逆だ。「絶対に大丈夫」という新規事業はありえないので(あったら他社がすでにやっている)、適当なところでリスクを取って挑戦する。そして、ダメだとわかったら、さっさと撤退することだ。20打数3安打1ホームランという「多産多死」だ。

最近の個人投資家の行動を見て、日本で新規事業がなかなか生まれない原因を改めて思い知らされた。

 

(2020年7月27日、日沖健)