中国の民主化という劇的な変化

中国が国際社会で孤立を深めている。香港の自治権を巡る問題は、6月までは米中の対立だったが、6月30日に国家安全法を施行したことから、中国対(ほぼ)全世界という構図に変わりつつある。世界を敵に回して、これから中国はどこへ向かうのだろうか。

1989年に天安門事件が起きた当時、ソ連・ユーゴスラビアなど社会主義国が次々と崩壊したので、「次は中国が崩壊する番か?」と世界が身構えた。1995年頃からインターネットが普及すると、多くの専門家が「さすがに自由を求める国民の声を無視できないだろう」と期待を込めて予想した。

ところが中国共産党は、民主化運動もインターネットもものともせず、国民の声を押さえ込み、以前よりもさらに強権的な政治体制を作り上げた。政治学者は、トランプ政権の誕生やイギリスのEU離脱などたまに予想を外すが、中国については長年一貫して大外しをしてきたと言える。

では、今後はどうだろうか。これまで中国の国民が共産党の一党独裁を支持してきたのは、何といっても鄧小平の改革開放路線(1978年)から40年以上、経済成長を実現できたことが大きい。国民は、多少の不満はあっても「政府の言うことを聞いていれば確実に暮らしは良くなる」と納得した。

ということは逆に、経済成長を続けることができないと、政府は国民からの信任を失い、体制の維持が困難になる。中国の政治体制は、経済成長をどこまで継続できるかにかかっていると言えよう。

中国の今後の経済成長を見通すのは、さほど難しくない。戦争など混乱期や技術の大転換期を除くと一人当たりGDP(=生産性)は大きくは変わらないので、人口の増減で経済成長率がほぼ決まる。日本は、生産年齢人口(1564歳)が減り始めた1995年以降、ゼロ成長が常態化している。移民流入で人口が増え続けるアメリカは、経済成長を続けている。

中国の人口は13.9億人(2018年現在)で、10年後の2030年には14.6億人でピークを迎え、以後減少する(国連推計)。1979年から2015年まで続いた一人っ子政策の影響が大きく、生産年齢人口はすでに2014年をピークに減少に転じている。

生産年齢人口の減少に伴って中国の潜在成長率(景気循環を除いた巡航速度の成長率)は年々低下しており、現在4%台に低下しているようだ。OECD2031年以降2.4%まで低下すると予測するが、想定を大きく超える少子化の進行と今回のコロナショックで、2030年までに2%程度まで低下することだろう。

潜在成長率を超える近年の7%以上の高成長は、財政支出や経済統計の操作で無理やり演出しているものだ。すでに多くの産業で深刻な生産過剰に陥っている現状から見て、この無理くりの高成長は長続きしないだろう。10年以内に、潜在成長率並みに年2%程度の低成長になる可能性が高い。

とすれば、低成長で10年以内に国民から信任を失った共産党は、生き残りのために民主化に向けて大きく舵を切る可能性がある。もちろん、なりふり構わぬ財政支出をさらに続けて、現在の体制を維持しようとする可能性も捨てきれない。

共産党は、どちらを選択するだろうか。中国の国民にとっても世界にとっても、共産党が段階的に民主化を進める前者が理想だ。ただ、香港問題での共産党の頑なな姿勢を見ると、後者で民主化に背を向け続け、矛盾がさらに拡大し、耐え切れなくなって東欧の民主化のような破滅的な混乱を招くという可能性も否定できない。

中国の民主化は、自由主義国家の日本にとって基本的には好ましいことだ。ただ、転換の混乱は避けられないし、中国という後ろ盾を失った北朝鮮が自暴自棄になる可能性もあり、どこまでプラスに働くかは微妙だ。

10年後というのは、遠いようで近い。日本の政府や企業は、香港問題に惑わされることなく、これから起こる中国の劇的変化に備える必要があるだろう。

 

(2020年7月13日、日沖健)