人を紹介する難しさと喜び

長年コンサルタントをしていると、他のコンサルタント・専門家や経営者を紹介して欲しいという依頼をよくいただく。5月の連休明け以降でも、企業からコンサルタント、企業から研修講師、公的機関から講演をしてもらう経営者、団体の機関誌からインタビューする経営者の紹介依頼がそれぞれ1件あった。

紹介なんて簡単だと思うかもしれないが、案外難しい。二種類の「しまった」が起こる。

一つは、不適切な人を紹介してしまう失敗だ。たとえば、「人事評価制度を構築できるコンサルタントを紹介してほしい」という依頼が来たら、自分のネットワークの中から要望のスペックに合うコンサルタントを紹介する。ただ、実際に紹介がうまくいくかどうかは、スペックをどれだけ満たしているかよりも、そのコンサルタントの人間性や依頼者との相性によって決まる。

以前、ある公的機関から「厳しくバシバシ指導できる研修講師を紹介してください」と依頼され、私は知り合いのある女性講師を自信をもって紹介した。その講師は、期待通りバシバシやってくれたのだが、やられた受講者がノイローゼになり、あっという間に彼女はお払い箱になってしまった。相性が悪かったということだろう。相性がぴったり合い、関係がうまく行くかどうかまで事前に察知するのは、困難なことである。

もう一つは、依頼元の不適切な対応で、依頼先のコンサルタント・経営者などに迷惑を掛けてしまうという失敗だ。とくに、経営者を紹介する場合、紹介するところまでは良いのだが、依頼者が常識に欠ける失礼な対応をして、経営者が立腹してしまうということがよくある。

以前、インタビューを引き受けていただいた東証1部企業の社長に対し、依頼者がろくに挨拶もない内にメールで日程・内容などの変更をあれこれ一方的に連絡するということがあり、社長から「日沖さん、ずいぶん無礼な人ですね」とお叱りを受けた。今月もそれに似た事件が起こった。「この依頼者は大丈夫かな」と心配だったら紹介の場に同席したりするのだが、それでもトラブルを完全に防ぐことはできない。

私は、紹介に当たって手数料をもらっていない。手間・時間をかけて紹介して「どうしてこんなコンサルタントを紹介するんだ」「ひどい対応をされた」と言われ、最悪の場合、私と依頼者などとの人間関係まで悪くなってしまうのは、一見、割に合わないことだ。

ただ、それでも紹介を続けているのは、苦労を超えるメリットや喜びがあるからだ。

まず、逆に私に案件を紹介してもらえるという実利的なメリットがある。私から案件を紹介されたコンサルタント(や研修講師)は、いつも紹介してもらってばかりでは申し訳ないので、いつか私に「お返し」しようと考える。まさに義理と人情の世界だ。

それよりも私にとって大切なのは、依頼者から「素晴らしい先生を紹介していただきありがとうございました」、紹介したコンサルタントから「良い案件を紹介していただきありがとうございました」と感謝されることだ。実はコンサルタントをしていて、クライアントから報酬相応の感謝をされることは多いが、心から深く感謝されることはそんなに多くない。人を紹介して心から感謝されるというのは、純粋に嬉しいことだ。

コンサルタントは自分の能力に自信を持ち、自分はなんでもできると勘違いしていることが多い。しかし、実際には、ちょっと専門分野から外れると、何もできないというのが普通だ。ある専門性を持ったコンサルタントとそれを必要とする企業を結び付けてあげるというのは、コンサルタントがその気になれば簡単にできる重要な社会貢献だと思う。

以上コンサルタントというやや特殊な商売の話をしたが、ビジネス全般に当てはまるのではないだろうか。とくに経営者や営業マンは、自分に能力があるかどうかよりも他人をうまく活用できるかどうかで仕事の成果が違ってくる。「コンサルタント」を「経営者」「営業マン」に読み替えて読み、ネットワーク構築のあり方について考えて欲しいものである。

 

(2020年6月22日、日沖健)