研修講師を巡る5つの誤解

 

このたび『プロの研修講師になる方法』という著作を出版した。近年の雇用流動化を受けて、専門家として独立開業を目指す会社員が増えている。中でも、会社勤務時代に培ったスキル・経験を直接生かせる上、大きな事業資金を必要としない研修講師は、人気の職業だ。本書は、プロの研修講師を目指す読者を対象に、開業の意思決定、顧客開拓、プログラム作り、主催者である教育担当者とのすり合わせ、当日の運営など実践解説している。

 

詳しくは本書をお読みいただきたいが、ここでは研修講師を巡る世間の誤解を5つ紹介しよう。

 

誤解その1・著名人や特殊な経験の持ち主しか研修講師になれない

 

 独立開業希望者から、よく「私のような普通のサラリーマンには研修講師は無理ですよね」と言われるが、これは研修と講演・セミナーを混同している。一般人を相手に自分の体験や特殊なスキルを語る講演・セミナーは、芸能人・スポーツ選手といった有名人や「アフリカを3年間放浪した」といった特殊な経験の持ち主が有利だ。しかし、企業からの依頼で従業員にビジネススキルを教える研修は、著名人・特殊な人である必要はない。実際、研修講師の9割以上は「元・普通のサラリーマン」である。

 

誤解その2・人事部に所属し教育を担当した人が圧倒的に有利

 

常識的には、元・教育担当者の方が、教える場面だけでなく、顧客開拓においても有利な気がする。しかし、私の知る限り、こうした“即戦力”と“ずぶの素人”で、成功確率に明確な差はない。即戦力が独立開業しスタートダッシュを切ることはあるが、研修ニーズも教育技法も人間関係もどんどん変わるので、昔取った杵柄で長く成功し続けるのは難しい。逆にずぶの素人でも、企業のニーズや研修技法学習し、人脈づくりやブランディングを心掛ければ、成功することができる。

 

誤解その3・独立開業前に顧客開拓をしておいた方が良い

 

まだ会社勤務をしている未経験者に研修を依頼するのは、義理・人情・しがらみであろう。そういう顧客は、実際に退職して関係が薄れると、さっさと契約を解除してしまう。また、研修は第三者からの紹介で受注することが多く、前勤務先は最も強力なネットワークなのだが、退職前に「フライング営業」をして勤務先との関係が悪化してしまうと、独立開業後の顧客開拓が制約されてしまう。

 

誤解その4・研修を成功させるカギはしゃべり方・教え方

 

講師未経験者や初心者は、研修の場で大勢の受講者を前にどうしゃべるか、どう教えるかを気にする。しかし、実際には研修の成否の8割は、主催する教育担当者との事前のすり合わせで決まる。事前のすり合わせで企業の研修ニーズを把握し、それに合った研修プログラムを合意できれば、かなり教え方が下手でも成功する。逆に、研修ニーズと合わない内容を実施すると、どんなに上手い教え方をしても成功しない。

 

誤解その5・プロの研修講師なら講師教育を受けている

 

資格・資金・コネなどなくても誰でも研修講師になれるので、世の中には自称「研修講師」がたくさんいる。ただし、大手教育団体に所属する講師を除いて、大半の講師はきちんとした講師教育を受けておらず、見よう見まねでやっている。手前味噌だが、講師教育を受けていない講師にはせめて本書を読んで基本を確認してもらえたら幸いだ。

 

私は2002年に独立開業し、18年間に渡って研修講師を務めてきた。他にコンサルタントやビジネス書ライターなどの仕事もしているが、研修講師は自分のスキル・経験を生かして社会人の成長に貢献し、自分自身も成長することができる、とりわけやりがいのある仕事だ。独立開業を希望する皆さんには、本書を参考にして、ぜひ研修講師に挑戦して欲しいものである。

 

(2020年4月6日、日沖健)