新型コロナで再認識した日本の会社員絶対主義

 

非常事態に直面すると、普段は気付かなかった人間の本性や物事の本質がわかってくるものだ。今回、新型コロナウイルスという非常事態を受けて、衛生意識の高さ、意思決定の遅さ、人権尊重、充実した医療体制など、日本・日本人の良い点・悪い点が指摘されている。

 

こうした中、以下の3点から個人的に改めて思い知らされたのが、会社員絶対主義、フリーランサー・自営業者軽視である。

 

1つ目に、一斉休校に伴う子育て家庭への休業補償。18日に支給が始まった休業補償では、会社員は8,300円を上限に支給されるのに対し、フリーランサー・自営業者には定額4,100円である。4,100円という金額の根拠は、東京都の最低賃金1,013円の4時間分ということらしい。

 

休業補償の是非はともかく、この金額差や当初フリーランサー・自営業者は対象外だったことから、「まじめに働く会社員はしっかり支援しよう」「気ままにチョロっと働くだけのフリーランサー・自営業者への支援はほどほどに」という政治家・国民の意識が垣間見える。

 

2つ目に、消費税減税。今回、経済対策として消費税の減税が急浮上している。麻生財務相ら政府は否定しているが、ネットでは消費税減税が声高に主張され、一部メディアからは「消費税減税を争点に安倍首相は衆議院解散に打って出る」という憶測まで出ている。

 

しかし、私が知る自営業者、とくに飲食店・小売店はほぼ全員が「消費税はもういじらないで欲しい。対策をするなら現金給付とか別の方法で」と言う。昨年の消費税増税で飲食店・小売店はシステム変更、取引先との調整など多大な苦労を強いられたからだ。気楽に消費税減税を叫ぶのは、買い物をする時にしか消費税を意識しない会社員や年金生活者などであろう。

 

3つ目に、自粛ムードと巣ごもり。新型コロナウイルスのクラスター感染が発生しやすいのは、「換気の悪い密閉空間」「多くの人が密集」「近距離で会話・発声」という3つの条件が“同時に重なった場所”なのだが、多くの国民は3条件の“どれか一つでも該当する場所”を避けようと、様々な活動を自粛し、自宅で巣ごもりしている。

 

私の知るフリーランサー・自営業者(コンサルタント・ミュージシャン・飲食店が多い)は、巣ごもりに否定的だ。巣ごもりしていては収入がなく生活できないので、「3条件に該当しないように活動し、何とか自分の事業を立て直し、日本経済を盛り上げよう」と語る。そういう声がかき消され、「少しでもリスクがあるなら回避しよう」と自粛ムードの世論になっているのは、世論といっても会社員や年金生活者の声なのだろう。

 

休業補償・消費税減税・巣ごもり、それぞれの是非はここでは論じないが、いずれも政治家が国民のために「良かれ」と思い、国民が自分たちの意思でやっていることだ。ただ、ここでいう“国民”とは会社員とその家族、年金生活者であって、フリーランサー・自営業者は含まれていない。日本では、フリーランサー・自営業者は「経済の主役である会社員を補完するおまけ」「会社員からおこぼれをもらう寄生虫」という位置づけなのだ。

 

世界では、フリーランサー・自営業者が増加している。アメリカでは労働者の35%に当たる57百万人がフリーランサーとして働き、その収入は建設・交通など主要産業の規模をすでに上回る(米UpWorkFreelancing in America 2019」)。今後もAI・ロボットの発達・普及から会社員は減る一方、フリーランサーは増え続け、2027年にはアメリカの労働者の半数以上がフリーランサーになる予測されている。日本でも同じ傾向にある。

 

今回、新型コロナウイルスを受けて、テレワークに本格的に取り組む企業が増え、会社員の働き方もフリーランサー化しようとしている。これをきっかけに、政府・企業は以下のような発展的な検討をしてほしいものである。

 

ü  会社に出勤して時間を決めて働くのと場所・時間を決めずにフリーに働くのでは、どちらが生産性が高いのか?

 

ü  会社員という立場で働くことの価値はどこにあるのか?

 

ü  フリーランサー・自営業者が多い社会が良いのか、少ない社会の方が良いのか?

 

ü  フリーランサー・自営業者が働きやすくするには、どういう政策が必要か?

 

(2020年3月23日、日沖健)