現場密着のコンサルティングという勘違い

 

以前は自前主義が濃厚だった日本企業でも、外部のコンサルタントを起用して経営改革を進めるケースが増えている。ただ、クライアント(顧客企業)がコンサルタントのサービスに満足しているかと言うと、なかなか微妙だ。コンサルタントに対して、「机上の空論を振りかざしているだけ」「提案してお終いで、実際の成果に繋がっていない」という痛烈な批判が浴びせられている。

 

こうした批判を受けて近年コンサルティング業界では、現場密着の指導、英語で言うとハンズオンが叫ばれている。経営陣への提案だけでなく現場に入り込んで継続的に指導する、補助金を獲得して終わりでなく活用して成果を出すところまで付き合う、という具合だ。M&Aでは、出資者が買収先に役員を派遣することをハンズオンという。

 

コンサルタントの世界、とくにメーカー・小売業者の支援では常識となりつつある現場密着。しかし、問題もある。

 

まず、完全な現場密着は、物理的に不可能ではないか。よく「私は24時間365日フル対応でクライアントに寄り沿います!」とアピールするコンサルタントにお目にかかるが、実際は「そういう気持ちで頑張る」というだけで、要所で顔を出すにすぎない。だいたい、まともなコンサルタントに常駐のフィーを払っていたら、クライアントが倒産してしまう。

 

それはともかく、そもそも現場密着はクライアントにとって本当に良いことだろうか。

 

コンサルタントが完全に現場に入り込んで、クライアントの従業員と一緒に汗を流して働くと、コンサルタントなのか、従業員なのか、立ち位置がわからなくなってしまう。クライアントにとっては、高いフィーを払ってコンサルタントを雇うより、優秀な人材を中途採用した方が効率的だし、社内にノウハウを蓄積することができる。

 

さらに、コンサルタントが現場に密着しすぎることで、クライアントの主体性が失われ、成長が止まってしまうという問題がある。

 

知り合いのコンサルタントのN氏は、顧問先にほぼ毎日顔を出し(もちろん低報酬で)、現場密着で指導している。N氏の熱心かつ的確な指導のおかげで、クライアントの業績は改善し、社長は大満足だ。ただ、従業員はちょっと困ったことがあるとN氏に相談する癖がついて、自分で問題解決する姿勢や能力が失われてしまった。70歳近いN氏が引退したらその先どうなるのか、社長も従業員も、そして当のN氏も不安を感じ始めている。

 

このN氏の例のように、いつまでも延々とコンサルティングを続け、経営者・従業員がコンサルタント依存になってしまうのは、クライアントにとって決して良いことではない(コンサルタントにとっては収入が増え、安定するので好都合だが)。

 

理想は、初期段階ではコンサルタントがクライアントの現場に入り込んで問題点を見つけ出し、期限を決めてガッと問題解決に取り組む。問題を解決するだけでなく、経営者・従業員に問題解決のプロセス・技法を習得してもらう。そして期限が来たら「日沖さんのおかげで問題が解決したし、問題解決の方法もわかりました。日沖さんにはもうお越しいただかなくて結構です。ありがとうございました!」とコンサルタントと別れる。

 

私は中小大学校・中小企業診断士養成課程など後進のコンサルタントを指導する場で「コンサルティングの目的は、コンサルティングを無くすことである」と言っている。コンサルタントがいなくてもクライアントが自立的に成長・発展できるような状態にするのが、コンサルタントの本来のあり方だと思う。

 

もちろん、現実のコンサルティングでは、そういう理想に到達するケースは少なく、ダラダラと関係が続くことの方が圧倒的に多い。ただ、少なくとも理想の状態がなんであるのか、見失わないように心掛けたいものである。

 

(2019年11月11日、日沖健)