3極分化する大学のキャリアセンター

 

この夏、新著『経営コンサルタントが伝えたい! 納得できる良い会社の選び方』を紹介(献本)するために、東京・名古屋・京都・大阪・神戸の40以上の大学のキャリアセンターを訪問した。

 

久しぶりに行った大学が多く、諸々と大きく変わっていたのに驚いた。私立大学は、押しなべてキャンパスが綺麗になっていた。とくに東洋大学・京都産業大学・愛知大学の近代的なキャンパスは印象的だった。予想外の最も大きな変化は、校門の守衛の対応。昔の守衛は、外部からの訪問者を不審者扱いしたものだが、どの大学でもアポなし訪問の私に笑顔で丁重に対応してくれた。

 

そして、訪問先のキャリアセンターも大きく変わっていた。かつて就職課と言われたキャリアセンター。私が学生だった1980年代の就職課は、まったく日陰の存在だったが(存在しなかった大学も多いだろう)、1990年代後半の就職氷河期に学生への就職支援が求められるようになり、一気に組織が拡充された。今日では、多くの大学がキャリアコンサルタントを配置し、会社紹介・相談・セミナー開催など多彩な活動で学生の就活を支援している。

 

ただ、キャリアセンターの活動実態は、各校で大きく異なるようだ。今回の訪問で、キャリアセンターは、大きく3つに分類できることがわかった。

 

第1は、実質的にほとんど活動していないケース。国立大学に多い。キャリアセンターの場所はわかりにくく、事務所は狭く、職員は2~3名いるだけ。室内はひっそり静まり返り、学生には滅多にお目にかからない。国立大学はトップ校だけでなく、地方の中堅校でも、学生は昔も今も就職でさほど苦労しないので、大学側に支援を期待していないのだろう。私を飛び込み営業と勘違いして追い払おうとする大学もあり、閉口した。

 

第2は、多彩な活動をしているが、ここ数年は手抜きしているケース。私立の下位校に多い。キャリアセンターの大きな目標として「内定率の向上」があるのだが、近年就活が空前の売り手市場になり、100%に近づいたので、目標達成でほっと一息ついているようだ。私が「内定を取るだけでなく、納得できる良い会社を選ぶことが大切です」と力説しても、担当者は「なんか言ってますね」という感じでポカーンとしていた。

 

第3は、最近、学生への支援をさらに強化・充実しているケース。私立の中上位校に多い。内定率アップに満足することなく、学生により良い会社に入ってもらおうと、多彩な活動を展開している。室内は学生がたくさんいて、活気にあふれている。担当者は私の話に好意的に耳を傾けてくれた。

 

ここでやはり心配なのが、第2グループの大学だ。部外者の私が口を出すことでもないのだが、内定率アップに満足して改革の手を緩めるようでは、10年後に大学が存続しているかどうか、大いに疑わしい。

 

大学の経営は、少子化の影響で厳しさを増しており、今後は下位校を中心に淘汰が進む。この厳しい環境で生き残るためには、大学は学生に選ばれるようになる必要がある。ここで学生が卒業後、納得できる良い会社に就職できるかどうかが、「行きたい大学」になるための重要ポイントになる。

 

現在は売り手市場だし、新卒一括採用の慣行が維持されているので、大学を出たら誰でも就職できる。しかし、近い将来、新卒一括採用が崩れ、中途採用が主体になったら、スキルが低い割に初任給が高い新卒は、採用市場で敬遠されるようになる。さらに、AI・ロボットが普及したり、外国人労働者が大量に流入すれば、新卒、とくに付加価値が高い仕事を担うことを期待できない下位校の卒業生は、いよいよ就職が困難になる。

 

大学は「内定を取れているから良いではないか」と現状に満足するのではなく、学生に社会で活躍できる知識・スキルを身に付けてもらい、きちんとしたキャリアサポートを提供する必要がある。下位校の抜本的な意識改革を期待したいものである。

 

(2019年10月14日、日沖健)