就活で売買するものは何か?

 

6月1日に解禁された2020年入社の就職活動は、7月1日時点で内定率が85.1%に達し(リクルートキャリア調査)、早くも終盤戦を迎えている。そして、夏休みが近づき、大学3年生の2021年入社に向けた就活が始まろうとしている。長女が大学3年生ということもあり、最近の就活はどういう状況なのか、興味を持って見ている。

 

ところで、大学のキャリアセンターの担当者や民間のキャリアコンサルタントは、就活に臨む学生や転活(転職活動)に臨む若手社会人に対し、「しっかり自己分析をしよう」とアドバイスをする。自分の特徴や強み・弱みをしっかり分析・把握できている人はすんなり内定を取れる、分析・把握できていない人はなかなか内定を取れない、というわけだ。

 

ちゃんと走るかどうかわからない自動車を誰も買わない。地震に耐えられるかどうかわからないマンションを誰も買わない。まったく同じように、企業の採用担当者は、特徴や強み・弱みがはっきりしない人を採用したくない。自己分析がしっかりできている人の方が断然、就職・転職しやすいわけだ。

 

では、自己分析さえしっかりやれば、納得できる良い会社に就職・転職できるだろうか。これが勘違いしやすいところだ。内定を取りやすいことと納得できる良い会社に入ることは、重なる部分も少しあるが、同じではない。

 

自己分析ができている人を採用したいというのは、企業側の希望だ。よく「買い手市場」「売り手市場」と表現される通り、労働市場で企業が労働力という商品を買う、労働者が労働力という商品を売る場合、自己分析、つまり企業から見て労働力という商品の品質がはっきりしているかどうかがカギになる。

 

しかし、働く側の希望を考えると、違った景色が見えてくる。有望な株に投資するのと同じように、企業で働くことは自分が持つ能力・時間を企業に投資してより多くのリターン(給料など)を獲得する「投資」と考えることができる。ディズニーランドに行って友達と楽しく過ごすのと同じように、やりがいのある仕事をし、素晴らしい仲間と過ごすという「人生を充実させる活動」とも言える。これらの場合、売買するのは「企業」だ。

 

つまり、企業が採用という購買活動で買う商品は「労働力」だが、学生・社会人が就活・転活という購買活動で買う商品は「企業」なのだ。

 

働く側からすると、企業という商品を買う場合に問題なのは、自分自身ではない。その企業が本当に高いリターンを期待できるのか、本当に人生を充実させてくれる舞台なのか、という点だ。つまり、働く側にとっては、商品としての企業の品質を見極める企業分析がカギになってくる。

 

最近の学生は、SPI対策など自分自身に関する分析・対策には熱心に取り組んでいる。ところが、企業分析にはさほど熱心ではない。初任給・平均年収・残業時間数・有給取得率を確認するくらいで、損益計算書・貸借対照表すら見ていない。まして成長性・競争力があるのかどうか、きちんと分析している人は極めてまれだ。その背景として、ビジネスの経験が乏しいキャリア支援担当者やキャリアコンサルタントが就活生を支援しようとすると、対応しやすい自己分析に偏ってしまうという側面がありそうだ。

 

内定を取るには、自己分析をして企業に「良い労働力を買ってもらう」ことが大切だ。ただ、会社に入るだけはなく、納得できる良い会社に入りたいのなら、企業分析をして「良い企業を買う」ことが大切だ。自己分析に費やすエネルギー・時間の3分の1でも良いので企業分析に取り組んで欲しいものである。そして、企業分析する際には、拙著『経営コンサルタントが伝えたい 納得できる良い会社の選び方』を参考にしていただければ幸いである。

 

(2019年7月22日、日沖健)