私は2006年から中小企業大学校・中小企業診断士養成課程で教えている。また昨年『独立する!中小企業診断士・開業のコツ60』を出版した。そのため、企業に勤務する中小企業診断士(いわゆる企業内診断士)から独立開業に関する相談をよくいただく。
中でも昨年から目立って増えてきたのが、表題の「副業コンサルタントはありか?」という質問だ。具体的には、「独立せずに副業でコンサルタント活動をすることは可能か?」「独立開業するなら事前に副業でコンサルタントを経験しておくのは有効か?」という2点だ。この質問が急増しているのは、昨年が「副業元年」と言われた通り、政府が働き方改革の一環で会社員の副業・兼業を解禁したこと、奨励していることによる。
「ありか、なしか?」と訊かれたら、職業選択の自由があり、当然ありだ。ただ「良いことか、悪いことか?」と訊かれたら、実に悩ましい。答えは、今後も会社員を続けるか、将来コンサルタントとして独立開業したいかによる。
まず、この先も会社員を続ける場合。
大半の企業は平日昼間に営業しており、平日夜と土日しか対応してもらえない副業コンサルタントは、クライアント(顧客)企業にとって不便この上ない。まともな企業から本格的なコンサルティングの依頼が来るとは考えにくく、公的補助金の申請書を作成したり、個人向けのセミナーを開いたりするのがせいぜいだ(補助金申請業務やセミナー講師業務が「無意味」ということではなく、コンサルティングとは「違う」というだけなので、悪しからず)。小遣い稼ぎが目的なら、ウーバーイーツの配達員をする方がはるかに効率が良い。
ただし、副業には能力アップというメリットがある。会社員の能力は、一つの職場で同じ業務を繰り返すよりも、複数の職場で色々な業務を経験する方が向上する。とくに他社の経営を見ることができるコンサルティングは、会社員にとって最高の学習機会だろう。本格的なコンサルティングでなくても、副業経験は会社員の能力にとって大いにプラスだ。
以上、副業でのコンサルティングは、クライアントへの貢献という点では疑問符が付くものの、能力アップが本業のプラスになる。資本や体力を必要としないのも好都合で、会社員の副業としてはお勧めだ。一点、副業コンサルタントは、「スキル・資格を活かせる」「充実した生活ができる」「副収入を得られる」と自分を中心に考えがちだが、コンサルタントを名乗る以上、顧客本位でクライアントの役に立つ活動をして欲しいものである。
一方、将来コンサルタントとして独立開業したいという場合はどうか。
まず、副業で能力アップというのは社会人の一般能力の話で、コンサルタントとしての能力は高まらない。コンサルタントには、クライアントの真の課題を探る問題発見力、クライアントと合意し受注に結び付ける交渉力、プロジェクトを運営し成果実現へと導くマネジメント力などが必要だ。これらは企業を相手に本格的なコンサルティングをしない限り身に付かず、補助金申請業務やセミナー講師業務は「何もしないよりはマシ」という程度だ。
また、独立開業後は受注確保が最大の課題になるが、ものづくり補助金の申請書を何百枚書いても、何千人の一般個人を相手にセミナーを開いても、まともな企業からの本格的なコンサルティングの受注にはほぼ結び付かない。本格的なコンサルティングを求める企業経営者は、補助金や個人向けセミナーとはかなり別の世界にいるからだ。
副業がプラスにならないだけでなく、悪い方向に働くことがある。コンサルタントは、他人からの紹介で案件を受注するケースが多いが、中でもコンサルタントの能力や人間性を熟知する独立前の勤務先関係者は、最も強力な人脈だ。ここで、退職前から副業に精を出す“浮ついた社員”は社内の評判が悪く、退職すると会社との関係が切れてしまう。せっかく培った最も強力な人脈を生かせず、ゼロからのスタートになってしまう。
したがって、将来コンサルタントとして独立開業するための準備としては、副業コンサルタントはお勧めできない。現在の勤務先で業務に打ち込み、実績を上げて会社からの信頼を獲得するのが、最善の事前準備なのだ。
先日、ある中小企業診断士関係団体の会合があり、今春、中小企業診断士の資格登録をした新入会員の半数以上が自己紹介の挨拶で「将来独立開業したいので、まずは副業でコンサルティングを始めたい」と抱負を語っていた。会場の先輩会員は「おっ、最近の新人はなかなか意欲的だな!」と好反応だったが、私は「うーん」と考え込んでしまった。
(2019年7月8日、日沖健)