このたび『経営コンサルタントが伝えたい 納得できる良い会社の選び方』と題する書籍を刊行した。就活に臨む学生、転活に臨む若手社会人を対象に、良い会社の選び方を解説している。
実は長女が大学3年生で、このほど就活を開始した。私が就活をした32年前と比べて、近年、就活はすっかり様変わりした。①活動の開始時期が早期化し、活動期間が長期化し、②エントリーシート、SPI、インターンといった新たな活動が加わり、③企業のホームページや就活支援サイトなど情報量が増えた。転活については、以前は例外・非常事態だった若手・中堅の転職が激増し、すっかり市民権を得たのが、最大の変化だ。
では、以前と比べて情報量が増え、時間をかけてじっくり活動できるから、良い就活・転活ができて皆大満足だろうか。「就活・転活の満足度は高い」とする調査結果もあるようだが、せっかく苦労して入社したのに数か月、場合によっては数日で辞めてしまうケースが激増している事実を素直に解釈すると、就活・転活の満足度は低いと見るべきだろう。
結局、企業からの情報提供が増え、就活支援サイトが充実しても、本当に良い会社かどうかは、実際に入ってみないとわからない、ということだ。よく「就職は結婚と同じ」と言われる通りである。
では、どうせ入ってみないと実態はわからないのだから、テキトーに会社を選んで就職し、合わないとわかったらさっさと辞めて転職すれば良いだろうか。テキトーに就職する→自分に合わない→辞める→テキトーに転職する→自分に合わない・・・の繰り返しでは、まともなキャリアを築けない。やはり、わからないなりに良い会社かどうかを事前にしっかり分析するべきだ。
たしかに本当の深いところは実際に入ってみないとわからないのだが、公開情報を使ってちょっと分析するだけでも、かなりのことがわかる。少なくとも、入社して「えっ、予想と全然違うじゃん」と仰天することはなくなる。では、何をどう分析すれば良いのか。詳しくは本書をお読みいただきたいが、ポイントを少しだけ。
まず、良い会社の基準を考えたい。すべての人にとって絶対的に良い会社は存在せず、仕事のやりがい、給料、労働時間、働きやすさ社会貢献など、比較する基準によって良し悪しが大きく違ってくる。経済誌の優良企業ランキングや就活サイトの就職人気ランキングなどに惑わされず、自分なりの基準を明確にし、それに照らして良い会社かどうかを判断するべきだ。
次に、良い会社の「原因」を確認する。ROE(収益性)・CAGR(成長性)・自己資本比率(安全性)といった経営指標が高い企業が優良企業とされるが、経営指標は良い経営・悪い経営をしたことによる「結果」である。結果もさることながら、われわれが知りたいのは、そういう結果をもたらす「原因」だ。そして、良い企業の原因は、①良い業界、②良い戦略、③良い組織、④良い人材、の4つである。
中でも大切なのが④人材だ。業界を選択し、戦略を決定し、組織を作り、成果を実現するのは人材だからだ。とりわけ、事業・組織の方向性を決める経営トップが優秀かどうかが、企業の盛衰を左右する。会社の人というと、就活・転活で直接接触する人事担当者を想起しがちだが、それよりもまず経営トップが優秀かどうかに着目する必要がある。
就活・転活が長期化し、活動の負荷が増し、傍から見て「昔と違って大変だな」と思う。しかし、自分を見つめ、企業を見つめ、自分に合った企業で仕事をするというのは、夢と希望にあふれることだ。就活・転活が上手く行き、自分にとって良い会社に入社し、ワクワクしながら仕事をする人が1人でも増えることを期待している。
(2019年7月1日、日沖健)