配当を増やす企業は泥船

 

今週は株主総会のピーク。昨日、近所の新横浜プリンスホテルを通りかかったところ、富士通の株主総会が開かれていた。富士通は今年3月、業績不振を受けて45歳以上の全グループ社員を対象に早期退職を募集することを公表した。株主総会でどういうやり取りがあったのか、興味あるところだ。

 

ところで、今年の株主総会では、昨年までより株主からの増配要求が強まっている。3月には、3年連続最終赤字で苦境に立つアパレル大手の三陽商会に増配要求の株主提案が出されて、波紋を呼んだ。

 

ノーベル経済学賞を受賞したモジリアーニとミラーによると、税金や取引コストが存在しない完全市場では、配当が多かろうが少なかろうが、株主に損も得もない(MM第二命題)。では、税金や取引コストが存在する現実の世界ではどうなのだろうか。今回は、誤解だらけの配当政策について、整理してみよう。

 

株主は、投資先が増配し、大金が自分の銀行口座に振り込まれると、ニンマリする。しかし、銀行口座に寝かせていても利息はゼロなので、次の投資先を探さねばならない。もし現在の投資先が成長企業で、今後も株価上昇が見込まれるなら、再投資したい。日本の税制では配当を受け取ると株主に所得税がかかるので、配当を受け取り、課税後の残りを再投資するのは非効率だ。配当ゼロ(100%内部留保)にして、株価上昇で報いてくれる方が良い。

 

一方、現在の投資先が今後成長を見込めないなら、内部留保し投資先に資金を残しておくと、株主の持ち分が目減りしていく。それを反映して株価が下落する。株主としては、急いで配当を受け取って、成長性の高い別の企業を探して投資した方が良い。泥船から逃げ、ちゃんとした船に乗り換えるわけだ。

 

つまり、経営者が株主の増配要求を受け入れるのは、「わが社は将来性がなく、投資資金を必要としないので、株主の皆さんに資金をお返しします」と白旗を上げたことを意味する。逆に理想は、配当ゼロ(無配)で内部留保を投資に回し、株価が上昇を続ける状態だ。実際にマクドナルドやマイクロソフトなどアメリカの優良企業は、成長を続けていた創業から数十年間は無配で、成長が止まってから配当を開始している。

 

以上から、企業の配当政策は、次の①から④の順でより望ましいと言える。

 

    これまで業績不振で内部留保が少ない。将来の成長も見込めない。ない袖は振れず、無配。

 

    これまで業績好調で内部留保がある。将来の成長を見込めない。財務の安全を確保するため無配(あるいは低水準の配当)。

 

    これまで業績好調で内部留保がある。将来の成長を見込めないので、配当で株主に還元。

 

    将来の成長性が見込めるので、無配にし、内部留保を投資。

 

日本企業は、戦後1990年頃までは④に近い状態だった。近年、株主からの増配要求が増えているのは、日本では三陽商会のような将来性のない企業でも配当が低水準(②の状態)なので、それを③に是正しようということである。株主にとって③は、②に比べればマシだが、決して理想ではない。

 

企業に増配要求を突き付けるのは、日本の上場企業の約30%を保有する外国人株主、いわゆる「もの言う株主」だ。この数年、再び「もの言う株主」が勢いを増しているのは、日本企業はいよいよ投資対象として魅力が低下しているということだ。外国人株主に「泥船だ」と言われた日本企業の経営者が「なにくそ!」一念発起することを期待したい。

 

(2019年6月24日、日沖健)