下働きを嫌う若手にどう対処するべきか

 

近年、就活生にガイコンが大人気だ。「ガイコン」と聞いて大半の方は「おや?」と思われるだろうが、外資系コンサルティング会社のことである。東大・京大の就活生を対象にONE CAREERが実施した就職人気調査では、ランキング上位10社のうちマッキンゼーやボストンコンサルティングなどガイコンが6社を占めた。

 

ガイコンが人気なのは、給与水準の高さなどもあるが、「仕事を通しての成長」が大きな理由らしい。伝統的な日本企業では、20代ではつまらない下積み仕事を押し付けられ、ビジネスパーソンとして成長できない。それに対しガイコンでは、若い頃から責任のある大きな仕事を任せられ、成長できる。「つまらない下働きばかりで成長できない日本企業」対「責任ある大きな仕事を通して成長できるガイコン」という対比だ。

 

実態はどうか。日本企業、とくに伝統的なメーカーで20代は下働きが続くというのは当たっている。ガイコンは、知名度のあるパートナーが営業して案件を受注し、経験あるプロジェクトマネジャー(PM)が案件を統括し、若手はPMの指示に従って分析やシステムの作り込みをする、という分業制だ。ガイコンの若手は、コンサルティング工場の作業員であり、クライアントの社長と丁々発止の激論を交わすということはない。

 

ということで、上の対比は、まったくの間違いというわけではないが、かなり誇張されている。ただ問題は、就活生だけでなく多くの若手社員がそういう対比をし、「俺たちは、ジジイがやりたがらないクソ仕事を押し付けられている」と不満を持っていることだ。最近、若年層の給与水準を引き上げても、新人が集まらない、若手社員の離職が止まらないというニュースが報じられている。これは、下働きが大きな原因だと推測される。

 

理想的には、付加価値を生まない、下働きを自動化・外注でなくすべきだ。しかし、ガイコンを含めて下働きがまったくない会社というのは考えにくい。そこで経営者・管理職は、下働きを若手社員にどう説明し、納得してもらうか、頭を悩ます。

 

最もいけないのは、「俺も若い頃は、お前ら以上に下働きばかりだった。でも管理職になれば楽できるんだから、今は文句を言わず我慢しろ」という説得だ。中学校の部活なら球拾いは1年間で済むが、管理職になるまで10年も、15年も下働きせよというのは、なかなか酷な話だ。そもそも、楽できるようになる前に会社が傾いているかもしれない。

 

そこで、一般に経営者・管理職は、下働きも大切な仕事なのだという説明をする。「“神は細部に宿る”というように、些細な下働きの中に仕事の本質がある」「下働きと発展的な業務の両方を経験することで、仕事の全体像がわかり応用力が身に付く」という具合だ。しかし、私はこれまで、下働きの重要性について腑に落ちる説明を聞いたことがない。53歳の私よりも仕事の経験が浅い若手の場合、なおさら理解困難だろう。

 

若手に下働きを我慢しろと強制することも、下働きが大切だと納得してもらうことも難しい。だとすれば、発想を変えて、年齢ではなく、能力に応じて仕事を分担させるのが合理的だ。年齢が低くても能力が高い者は発展的な仕事を担当し、年齢が高くても能力が低い者は下働きを担当する。大学選手権9連覇を果たした帝京大学ラグビー部は、上級生が雑務を担当する運営で成功を収めた。

 

もちろん、下働きの担当だけを変えて、「給料はこれまでと変わりません」では、若手は到底納得できない。給与・処遇、意思決定の仕組みなどについても年功序列的な運営を改める必要がある。下働きの問題にまじめに取り組むと、組織を抜本的に見直そうという話に発展するわけだ。

 

経営者・管理者は、下働きの問題について「最近の若いヤツらは我慢ということを知らない」「目先のことだけを考えている」とよく嘆く。しかし、こうして考えてみると、経営者・管理者よりも学生・若手の方がよっぽど合理的だ。下働きへの学生・若手の不満は日本に独特な年功序列に対し挑戦状が叩きつけているものと、経営者・管理者は謙虚に受け止めるべきである。

 

(2019年6月10日、日沖健)