現役とOBの“合コン”のなんと多いことか

 

先々週、所属するあるコンサルタント団体で会員向け講演会が開催された。講師は、その団体の長老X先生。X先生はもう現役を引退しているし、開催案内には講演の主旨も演題も記載がなかったので、「昔話を聴くだけなら時間の無駄かな」と思った。しかし、長年お世話になっているX先生の貴重な登壇なので、とりあえず出席した(予想通り昔話だったが、非常に面白かった)。

 

ここで気になるのは、講演会が開催された経緯。演題も決めず開催案内を出したくらいだから、X先生が「若手の会員の皆さんに是非とも伝えたいことがある」と望んだわけではない。若手の会員から「X先生のお話を聴きたい」という声が上がったわけでもない。団体の幹事がX先生に「われわれ会員はX先生をお慕いしています。先生の貴重なお話を聴きたいので、何卒ご登壇を!」と働きかけたようだ。幹事からX先生への忖度・ヨイショだ。

 

この件がコンサルタントをしている私の特殊な体験かというと、そうでもなさそうだ。聞き及ぶ限り、サラリーマンの世界の方がもっと上を行っている。

 

大手メーカーに勤める友人のY君は、年間15件以上OB・現役の合同懇親会(Y君は「合コン」と呼ぶ)の幹事役をしているという。OBからの要望を受けて開催する場合やきちんと年間スケジュール化されている公式なものも一部あるが、大半はY君の方から阿吽の呼吸で「そろそろあの頃の仲間で集まりませんか?」と声を掛けるらしい。

 

Y君にズバリ「そういうことやってて虚しくない?」と訊ねたら、ケロッとした顔で「いや、全然。仕事の一部だから」と答えた。Y君は人事部門で管理職をしているので、「合コンは、会社を離れても気に掛けてくれる温かい会社だという社内メッセージになる」「合コンを開くぐらいでOBの皆さんに喜んでもらえるなら、お安い御用。現役もいずれOBになるだろ」ということだった。「仕事の一部」と言われて、返す言葉がなかった。

 

Y君の会社では、人事部門だけでなく社内の各部門・各職場で合コンが頻繁に行われているらしい。この実態についてY君は、「サラリーマンが客や上司に気を使うのは当たり前。OBという一見無関係な人に対してもちゃんと気配りができる人が、会社では高く評価されるんだ」と解説してくれた。サラリーマンを辞めてかなり経つ私は、「そういうものなんだ…」とうなずくばかりだった。

 

ということで、Y君によると合コンの幹事をする現役社員にもメリットがあるようだが、私自身は上司と呑んで楽しかった体験はあまりないので、総合的には時間と金の無駄という気がする。それよりも気になるのは、誘われて合コンにホイホイと参加するOBの方だ。内心嫌がっている部下に付き合ってもらうのは、気が引けないものだろうか。「部下なら俺の酒に付き合うのが当然」ということだろうか。

 

先週、中小企業診断士の恩師Z先生(もうすぐ90歳!)を囲む合コンがあった。以前はきちんとした定例の勉強会だったが、近年は弟子のわれわれが忖度するわけでなく、Z先生の人柄を慕って「たまにはお話を聴きたい」と自然発生的に集まる形で、かれこれ25年以上も続いている。こういう合コンは、現役もOBもお互い無用な気を遣わなくて済むので、実に楽しい。

 

私はまだ現役だが、企業研修・中小企業大学校・社会人大学院といった場で教えているので、受講者・学生から飲み会に誘われることがある。Z先生のように引退後も長く慕われる人格者になるのは難しいとしても、もし明らかに忖度で合コンに誘われたら、乾杯だけして「後は皆さんで仲良く呑んでください」と10万円ポンと置いて帰る粋な老人になりたいと思っている。

 

(2019年6月3日、日沖健)