西武信金の暴走、診断士の迷い

 

金融庁は24日、準暴力団幹部の疑いがある人物の親族へ融資していたなどとして、信金大手の西武信用金庫(東京都中野区)に信用金庫法に基づき業務改善命令を出した。落合寛司理事長は同日、問題の責任を取って辞任した。

 

東京西北部の一信金に過ぎなかった西武信金は、9年前に就任した落合理事長の強力なリーダーシップの下、都心部への進出、不動産融資の拡大などで大躍進した。金融庁の森信親長官(当時)から「信金の雄」と称賛されるなど、同じく業務改善命令を受けたスルガ銀行(森前長官「地銀の優等生」)と並んで衰退する地域金融業界では異色の存在だった。

 

西武信金の新経営陣には、リスク管理の徹底や組織運営を見直しなど抜本的に改革することを期待したい。ただ、「経営環境が厳しいから、一か八か危ない橋を渡ろう」というのは、全国の地域金融機関に共通する問題だ。スルガ銀行や西武信金を特殊事例として終わらせず、業界全体で構造改革を進める必要がある。

 

マクロ的に考えると、人口減少と並んで地域金融機関を苦しめているのが、超低金利だ。アベノミクスの金融緩和・ゼロ金利政策によって、金利で稼ぐ金融機関の収益機会が奪われた。通常の融資では稼げなくなり、破れかぶれで暴走したというのが、スルガ銀行や西武信金の問題の背景である。デフレ脱却の効果が見えず、弊害ばかりが目立つ金融緩和を継続して良いものか、今回の事件をきっかけに議論を深めてほしい。

 

ところで、私が所属するある中小企業診断士団体は、地理的に近い西武信金と関係が深い。受注が少なく困っている診断士が多い中、急成長する西武信金は魅力的な存在で、これまで団体は落合理事長など西武信金との関係強化に努めてきた。その結果、現在、団体に所属する多くの会員が同行からの委託で経営診断業務を担っている。

 

昨年、週刊誌や毎日新聞が西武信金の問題を報道したことから、私は団体の幹部に「当団体が暴力団への融資を助長していると疑われかねず、西武信金とは距離を置くべきではないか。少なくとも、西武信金との関係のあり方について会員に説明する必要がある」と進言した。ところが、幹部は「まだ憶測報道で、事実とは限らない。多くの会員が西武信金と関わって活動している中、憶測報道に基づいて動くのは得策ではない」という返事だった。

 

これはなかなか難しい問題だ。SNSに無数の噂話が拡散し、ニュースサイトにフェイクニュースが氾濫する今、噂話やフェイクニュースにいちいち対応していたら、仕事がなくなってしまう。と言って、全国紙に出たのに何の対応もしないのは、リスク管理としてはスピード感に欠ける。では全国紙ならフェイクニュースではないと言えるのか。対応するとして、団体が主導して関係を断ち切るのか、原則を示して所属会員の判断に任せるのか…。

 

結局、この手のリスク管理やコンプライアンス(法令遵守)には絶対の判断基準はなく、その時代・その社会の常識に照らして判断・対応するということだろう。本件については、日本では“腐っても鯛”で全国紙の権威はまだ高いので、毎日新聞で報じられた時点で何らかの対応をするべきだった。ただ、西武信金のビジネスがすべてブラックというわけではないので、団体はリスク管理・コンプライアンスの原則・指針を示し、会員は案件ごとに常識を働かせて判断する、という対応が妥当だろう。

 

日本で1990年代後半にリスク管理やコンプライアンスが議論されるようになって20年以上が経つ。その間、リスク管理・コンプライアンスの理論・技法はかなり進化したが、現実の各論になると、「常識に照らして判断・対応」というあいまいな結論に落ち着く。この問題の難しさ、もどかしさを痛感するところだ。

 

(2019年5月27日、日沖健)