MBAと中小企業診断士で得られるもの


 

先月の「弁護士・税理士・中小企業診断士」に続いて資格絡みの話。私は1995年に中小企業診断士に登録し、1998年にArthur D. Little School of Management(現Hult International Business School)を修了し、MBAを取得した。MBAも中小企業診断士も社会人に人気の資格・学位なので、学生や若手社会人から「取得して得られるものって何ですか?」「やっぱり取得した方が良いでしょうか?」とよく聞かれる。

 

私は、2つの学習を通してアジェンダ(取り組み課題)を設定するスキルが身に付いたし、人脈が広がり、現在コンサルティング業を営む上でかなり役立っている。ただ、会社勤務をしている人にとっては、MBA・中小企業診断士を取っても給料が増えるわけではないし、会社方針と違った課題を設定すると「上司の命令を無視する危ないヤツ」、社外の人脈が広がると「社外活動に精を出す中途半端なヤツ」という低い評価になってしまう。

 

そこで、一つ目の質問には次のように答える。「MBAで学んだのは、MBAでは大したことを教えていないということです。私が中小企業診断士を取得して得られたのは、中小企業診断士は大した資格ではないとわかったことです」。

 

MBAは経営者を育成する“現代の虎の穴”で、秘密の経営技法を伝授していると盲信している人が多いが、実際には市販のケースを使ってワイワイ議論するだけだ。中小企業診断士の受験勉強では色々な科目を浅く広く学ぶだけで、受験しなくても本を読めば済む。ともに、学習内容はいたって平凡だ。人脈やステイタスの効果も微妙だ。

 

と学生や若手社会人に説明しても信じてもらえず、「日沖さんは謙遜しているだけで、本当は経営の秘伝が身に付くんじゃないですか?」と突っ込まれる。実は私もMBA・中小企業診断士を取るまではそう考えていたが、実際に取ってみて以上のことがわかった。独身の人に「結婚生活なんてつまらないよ」と説明しても理解してもらえないのと同じで、「MBAも中小企業診断士も大したことない」と理解するには、実際に取る必要があるようだ。

 

では「大したことない」から「取得しても意味がないのか?」と問われると、これはなかなか微妙だ。私も取らなければ「大したことない」と理解できず、一生「俺が出世できないのは中小企業診断士を持っていないからだ」「あいつが俺より出世するのはMBAホルダーだからだ」と誤解し、いじけた人生を送っていたかもしれない。真実を知り、無益な嫉妬心から解放されるという点で、取らないよりは取った良い。

 

そこで、さらに次の質問「結局、取った方が良いんですか」。答えは、独学ができるかどうかで決まってくる。

 

AIなど科学・技術が発展し、グローバル化など社会・経済が変わり、若い頃に学校で学んだことはすぐ陳腐化する。一方、これから定年は65歳、70歳、75歳と引き上げられ、社会人生活は長くなる。近年リカレント教育(学び直し)が強調されている通り、人は働いている限り、いや生きている限り学び続ける必要がある。

 

子供と違って、社会人は能力・興味・ライフスタイルなど個人差が大きいので、自分なりにテーマを設定して自分のペースで学ぶべきだ。社会人にとっては、学校に通って世間一般向けのプログラムで学ぶより、独学で自分なりに学ぶ方が良い。自分なりに何かテーマを持って着実に独学ができているというなら、わざわざ金と時間をかけてMBAや中小企業診断士を取る必要はない。

 

ただ、何をどう勉強したらよいのかわからない、わかっても独学では長続きしないという社会人が結構いる。そういう独学できない、「学習意欲はあるけど実践はもう一歩」というやや残念な社会人にとって、MBA・中小企業診断士はまあまあ有効だ。

 

以上、2回に渡って人気の資格・学位について解説したが、改めて思うのは、資格・学位がこれだけ社会人の関心を集めているのに、実態があまり知られていないということだ。保有者には自分の資格・学位の実態を広く紹介することが求められている。

 

(2019年5月6日、日沖健)