外国人労働者をもっと増やすべきだ


 

政府が目指す外国人労働者の受け入れ拡大について議論、とりわけ反対論が盛り上がっている。野党は改正入国管理法を「実質的に移民政策ではないか」と批判している。各種メディアでも、日本人労働者の失業・賃金低下、治安悪化といった問題点が指摘されている(たとえば塚崎公義「外国人労働者受け入れが日本人労働者にとってデメリットしかない理由」)。ネットでは「受け入れ拡大どころか、外国人を排斥しろ」という主張が氾濫している。

 

この問題が難しいのは、外国人労働者が増えるのと減るのと「どちらが良いか」ではなく、長期的にはどちらになっても現状よりも悪い状態にしかならない、つまり「どちらがマシか」という選択であることだ。「日本人の雇用が減る!」「治安が悪化する!」と一方的にデメリットをまくし立てるだけではダメで、外国人労働者の増加・減少それぞれのデメリットを比較する必要がある。

 

外国人労働者増加のデメリットが声高に主張されているのに対し、外国人労働者減少のデメリットはあまり聞こえない。政府も経団連など経済団体も、批判の声に押されて消極的かつ中途半端な説明に終始している。ここでは、外国人労働者が減少した場合のデメリットを確認しよう。

 

現在、日本では128万人の外国人労働者が働いている。外国人労働者を制限し、仮にゼロになったら、どうなるだろうか。

 

短期的には、外国人労働者がいなくなると、失業率が大きく改善する。10月の完全失業者数は162万人なので、完全雇用に近い状態になる。労働需給のひっ迫で、日本人労働者の賃金は急上昇するだろう。企業の労働生産性も上がる。この部分だけを捉えると、国民にとっても、企業にとってもプラスが多い。

 

ただ、ここで話は終わらない。中長期的に人手不足と賃金上昇が企業に悪影響を及ぼす。

 

製造業の多くは、人件費の高騰を嫌って賃金の安い海外への工場移転を加速させるだろう。工場だけならまだしも、生産が海外、市場・顧客もほぼ海外ということになれば、いずれトヨタもソニーも、東京支店を残して会社ほぼ丸ごと海外に移転するかもしれない。日本のモノづくりの空洞化は必至だ。

 

製造業と違ってサービス業の多くは、将来も国内で事業展開する。問題は、サービス業は製造業と比べて労働集約的なことだ。サービス業は、現在すでに深刻な人手不足に直面している。とくに、介護・建設・居酒屋・コンビニといった3K業種は、賃上げしても日本人労働者がなかなか集まらず、外国人労働者なしには事業が成り立たない窮状だ。外国人労働者を排斥したら、3K業種を中心にサービス業は壊滅的な打撃を受けるに違いない。

 

つまり、長い目で見ると、外国人労働者の減少によって国内の企業が減っていく。企業が減れば、雇用も賃金も税収も減る。また、国民の関心が高い治安についても、税収減少で警察・消防・防災が維持できなくなれば、逆に国民の安全・安心がもっと脅かされるのではないだろうか。外国人が増えても減っても、日本人は貧しくなり、治安は悪化していくのだ。

 

理屈の上では、外国人労働者がいなくても、製造業が低賃金の労働力に頼らないイノベーティブ・高付加価値なビジネスに変貌し、3K仕事を完璧にこなすロボットが実用化されれば、これらのデメリットは何ら問題ない。企業がそうした方向を目指して努力することは大切だ。しかし、現実にどうかと言われると、かなり厳しいと覚悟するべきではないだろうか。

 

日本の生産年齢人口(15歳~64歳)は、2018年1月1日現在7,484万人から、2050年には5,275万人にまで2,000万人以上も激減する。こうした中、国民の最低限の暮らしを維持するには、政府が想定する5年間35万人の受け入れではまったく不十分で、向こう30年で1千万人以上が必要である。

 

どんどん縮んでいく今後の日本において、近視眼的な議論や外国人というだけで拒絶する感情論に与する余裕はないと思うのである。

 

(2018年11月19日、日沖健)