なぜあの人がトップに?

 

今年は、スポーツ界で不祥事がこれでもかと多発している。とくに、本来不祥事を取り締まるべき指導者が異常な言動で世間を騒がせている。レスリングの栄監督、日本大学の田中英寿学長とアメリカンフットボール部の内田正人監督、日本ボクシング連盟の山根明会長といった面々だ。

 

彼らの行状についてはかなり明らかになり、(田中学長を除いて)公式の処分が下され、騒動は一段落した。ただ、依然として国民にとって大きな謎なのは、どうしてこういう問題だらけの人物がそもそも組織のトップに立つことができたのか、という点だ。

 

3人の中でもとりわけ謎に包まれているのが、山根会長だ。山根会長は、ボクシングの競技経験がなく、若い頃はヤクザだった。奈良県でアマチュアボクシングの運営に携わるようになり、自費を投じて奈良県協会を立て直し、徐々に関西で発言力を高めた。というあたりは分かっているが、そこから先どうやって日本ボクシング連盟のトップまで上り詰め、絶対的な権力を握ったのかは、謎に包まれている。騒動の鎮静化で終わりとせず、実態を解明し、今後の教訓として欲しいものである。

 

ところで、山根会長らが特殊な事例かと言うと、そうでもない。私がこれまでコンサルタントとして活動してきた中で、程度は違えど「えっ、なんでこの人が?」という企業のトップに数多く出会った。以下、私の印象論。

 

問題トップには、明確な共通点がある。分別がなく、自分中心に物事を考える。傍から見ると子供っぽい意見を、空気を読まず、声高に主張する。そして、意見が通らないとすねて、わめき散らす。一言で言うと、「子供っぽく、面倒くさい人」だ。

 

たいていの組織では、そういう問題人物は通用しない。「そんなのダメでしょ」「ちゃんと周りのこと考えなよ」と反対意見が出て、意見は通らない。上司や人事部からの評価も低いので、トップどころか、管理職になることすら難しい。少し厳しい組織からは排除されてしまう。

 

ところが、組織によっては、こういう問題人物をメンバーが権力を獲得してしまうことがある。組織のメンバーが組織の状況や他メンバ―に無関心で、問題人物の異常行動をスルーする。自分と関係する場合、もめ事を避けようとして、なあなあで済ましてしまう。やがて問題人物との対立状態に嫌気が差し、「そこまで言うなら、好きなようにすれば」となる。こうして、メンバーが「羊の群れ」のように従順な場合、問題人物がやりたい放題になり、最終的に権力を握ってしまうのだ。

 

こうしてみると、山根会長らに問題があるのはもちろんだが、問題トップの誕生を許してしまった組織のあり方にも問題がありそうだ。問題トップは、「子供っぽく、面倒くさい人」と「羊の群れ」が組み合わさって起きる現象なのだ。ボクシング連盟などスポーツ競技団体のメンバーは、若い頃からスポーツ一筋で、競技以外のことには関心が薄い。一般企業に比べて、「羊の群れ」になりやすいのだろう。

 

では、問題トップを生まないために、組織はどう対処するべきだろうか。人事評価システムを見直す、通報制度を充実させる、といった技術的な対応は当然行う。ただ、それだけでなく、組織の体質を抜本的に見直す必要がある。言いたいことを言い合う、間違ったことを正す、といった当たり前のことができるよう、体質・風土を改める。また、外部からの監視の目が行き届くように、開かれた組織にする。

 

トップではなくても「子供っぽく、面倒くさい人」が何となく幅を利かしているというのは、多くの組織で見られる現象ではないだろうか。もしそうなら、危険な状態だ。現実を直視し、組織改革に取り組んで欲しいものである。

 

(2018年10月22日、日沖健)