先日、私の友人の知人の知人からアプローチされ、「事情があって名前は明かせませんが、ある秘密の団体が融資先を探しています。大手企業の社長を紹介してくれませんか」と言われた。「紹介先と融資が成約したら、日沖さんには仲介手数料として融資額の1%を支払います。融資額は最低200億円で、仲介手数料は最低2億円!」という夢のような話。
話を聴いただけで終わりにしたので真相は不明だが、ほぼ間違いなくM資金詐欺であろう。もし次に会ったら、「融資契約を進めるにあたり、印紙税や事務手数料が必要です。まず2,000万円を支払ってください」とか言って来るのがオチだ。ちなみにM資金とはマッカーサー元帥の秘密資金(もちろん架空の話)。近年では、大相撲の朝青龍、タレントの剛力彩芽、ローソン元会長の玉塚元一らがこのタイプの詐欺に引っ掛かったらしい。
コンサルタントとして活動していると、人脈が広がっていく。すると人脈を目当てに、こういう怪しげな輩が近寄ってくる。現在、私はあまりお金に困っておらず、心持ちが平静なので、詐欺に引っ掛からずに済んだ。しかし、もし独立開業直後の貧乏な時期にこういう話が来ていたら、詐欺師グループの一味になっていたかもしれない。
今回の件に限らず、コンサルタントは誘惑が多い商売だ。
最大の誘惑は、クライアント(顧客)の機密情報を利用して自分の利益を得ることだろう。コンサルタントは、クライアント企業の機密情報を知りうる立場にあるので、それを競合他社に売って一儲けするのは、実に簡単だ(警察に捕まらずに儲け続けるのは難しい)。犯罪まで行かなくても、あるクライアントのコンサルティングで得た知見を同業の次のクライアントに利用するのは、よくあることだ。
また、クライアントの側から犯罪への協力を依頼されることがある。脱税のアドバイスを求められるのは日常茶飯事だし、近年ビジネスが複雑化していることから、犯罪のスキーム作りを相談されることもある。世界を揺るがしたエンロン事件では、アーサーアンダーセンのコンサルタントが架空取引などエンロンの違法ビジネスの絵を描いた(アンダーセン側から積極的に違法取引をエンロンに持ち掛けたらしい)。
こうした過ちを防ぐために、一般にコンサルタントはクライアントとの間で機密保持契約を結ぶ。1業種に1社しかクライアントを獲得しないと自主規制しているコンサルティング会社もある。コンサルタントの団体である中小企診断協会は、会員向けに倫理規定を定めている。
ただ、実際にこれらを守るかどうかは、コンサルタントの良心に委ねられており、事実上、野放し状態だ。その結果、コンサルタントが絡んだ不祥事が続発し、「コンサルタントは胡散臭い」「悪事の陰にコンサルタントあり」という残念な社会的な評価が定着してしまっている。
今後の対策としては、経済産業省や警察がコンサルタントを監視する体制の強化が考えられる。ただ、コンサルタントの数は多く、活動範囲も幅広いので、有効な監視体制を敷くには膨大なコストがかかってしまう。それよりは、厳罰化によって犯罪をするメリットを低下させるのが有効だろう。
と同時に期待したいのが、コンサルタントの職業倫理の啓蒙・教育だ。コンサルタントの国家資格である中小企業診断士の試験では、いかにコンサルティングをするかに重点が置かれていて、職業倫理はスルーされている。受験者数が多い中小企業診断士試験が変われば、職業倫理の重要性が認識されることになるだろう。
いずれにせよ、最も誘惑の多い商売でありながら野放しになっている状況になっていること、そして、不祥事がコンサルタントの社会的信用を低下させていることに、われわれコンサルタントはもっと危機感を持つべきである。
(2018年10月15日、日沖健)