若手の早期離職は問題なのか?

 

若手社員の早期離職が問題になっている。クライアントから「新人にミスを注意したら、翌日から会社に来なくなった」「目を掛けていた新人がさっさと転職してしまった」といった話を聞く。せっかく採用・教育した新入社員に短期間で辞められてはたまらないということで、企業は対応に追われている。今回は若手社員の早期離職について考えてみよう。

 

まず、若手社員の離職を巡るトレンド・状況を確認しよう。厚生労働省の調査によると、大卒新入社員のうち入社後3年以内に離職する割合は、1980年代前半までは10%代だったのがバブル期には20%超に上昇し、さらに1995年から30%を超え、30%台半ばまで上昇した。2005年頃からやや低下したが、リーマンショック後は再び上昇し、現在やや落ち着いて30%前半になっている(2017年調査では32.2%)。

 

不況期には求人が減り、学生は自分が望まない会社に嫌々入社するので、本人の職種・業務・職場などに関する希望とのミスマッチが発生し、離職率が上がる。逆に、好況期には希望する会社に入社できるのでミスマッチが少なく、離職率は低下する。ということで、景気によって多少上下するのだが、長期的に上昇トレンドにあることは間違いない。

 

ここで、離職率は何%くらいが適正なのか、という疑問がわく。“問題”とは現状とあるべき姿が乖離している状態であり、経営者や人事部長が「早期離職はわが社にとって大問題だ!」と語るとき、何らかのあるべき姿、適正水準が想定されていることになる。何人かの経営者・人事部長に訊ねてみたところ、異口同音に「そりゃ、理想はゼロでしょ」という答えだった。早期離職は、若手社員の希望がかなっていない場合(ミスマッチ)に起こる現象であり、希望がすべてかなうのが理想だというわけだ。

 

しかし、このミスマッチというのが厄介だ。学生が就活で行う企業研究には限界があり、入社して実際に働いてみないとわからないことが多い。また、会社で働くと、色々なことを学び、経験し、興味・関心の幅が広がっていく。ミスマッチがない、つまり五里霧中の学生時代に希望したことをかなえれているのが本当に良いことなのか、誠に疑わしい。

 

企業にとってのミスマッチもある。「こいつは良いぞ!」と思って採用した学生が入社後まったく無能だと判明した場合だ。また、学生が有能でも、企業の事業内容が変わって戦力として不要になるということもある。バイオの事業を始めたが、不採算で撤退することになり、バイオ科学の専門家が不要になるという具合だ。こうした場合、若手社員にはさっさと離職してくれた方が企業にとってありがたい。

 

つまり、離職率ゼロというのは、学生に企業・仕事を見極める確かな目があり、採用担当者に学生を見極める確かな目があり、若手社員が成長しても興味・関心が変わらない、という条件が奇跡的に揃った場合か、昔のように転職そのものが制限されている場合に実現することだ。これらは非現実的であり、離職率は高くて当たり前、ゼロでなく、ある程度高い方が良いということになる。個人的な感覚では、30%台前半という現状はまだ低すぎで、50%くらいあっても良いように思う。

 

さすがに入社して数カ月で離職すると、仕事の基本が身に付かず、人脈も形成されず、本人のためにならない。闇雲に転職すればよいというわけではない。しかし、入社して2~3年たったら、現在の会社・担当業務が本当に自分に合っているのか、じっくり自分に向き合うべきだろう。そして、ミスマッチがあるなら、躊躇せず転職するべきだ。

 

企業も、早期退職に対する見方を改める必要がある。伝統大企業の経営者や人事部長から「うちは世間の(しょぼい)企業と違って若手の離職が少ないんですよ」と自慢されることがある。しかし、従業員が入社後成長していないか、ミスマッチを感じながら我慢して働いている可能性が高い。早期離職が少ないのは、決して良いことではないのだ。

 

早期離職=悪、というのは終身雇用の発想だ。経営者には意識改革が求められている。

 

(2018年8月27日、日沖健)