フェアプレー問題は議論するべきこと?

 

先週のワールドカップの対ポーランド戦で、日本は0-1で負けている状態なのに、点を取りに行こうとしなかった。このスポーツマンシップに反するプレーが、国内外で議論を呼んでいる。

 

このプレーで日本が得たものも失ったものも大きい。得たものは、もちろん決勝トーナメント進出という成果、失ったものは、日本代表への共感・支持である。日本代表は、限られた戦力で精一杯がんばる姿勢やフェアプレーに徹する姿勢が共感を呼び、さほど強くない割には国内外で人気があった。しかし、今後、こうした共感・支持は失われる可能性が高い。個人的には、得たものよりも、失ったものものの方が大きいように思う。

 

ただ、西野監督の決断が「あり」か「なし」かと言われたら、大いに「あり」で、批判する気は毛頭ない。そもそも本件は、人の立場や考え方によって正解が異なり、議論するにはあまりなじまないように思う。代表的な立場と考え方を整理すると。

 

西野監督やサッカー協会が大会で勝ち進むことを絶対の目標とするなら、「あり」だ。サッカー協会が今後の競技の普及・発展を第一に考えるなら、イメージダウンにつながるので「なし」だ。

 

当の選手は、目の前の相手に勝ちたいだろうから、本音は「なし」だろう。もちろん、監督批判はできないので、「あり」と答えるしかない。

 

ファンには何種類かあって、面白いサッカーが見たいという“サッカーファン”は「なし」、とにかく日本が好きという“日本ファン”は、日本がやったことならなんでも「あり」となる。

 

ビジネスパーソンは、「ビジネスの世界では当然のことでしょ」ということで「あり」とする人が多いようだ。

 

結局、人にはそれぞれ立場があり、どの立場が正しいということはない(“日本ファン”という立場はやや微妙だが)。「ビジネスに当てはめて考えるべきだ」「いや、サッカーの試合なんだからサッカーファンの立場で考えるのが当然だろ」と立場が違う人同士が議論しても、平行線をたどるだけだ。自分の考えを持ち、表明するのは大いに結構だが、相手を批判して熱く議論することではないと思う。

 

ただ、議論にそぐわないテーマだから、つまらないテーマかというと、まったくそうではない。今回の件は、経営コンサルタントという“立場”からは、大いに参考になった。それは、西野監督が困難な状況で決断をしたことだ。

 

企業経営者の中には、複雑な問題に直面しても、経営が危機的な状況に陥ってもなかなか決断せず、従業員任せにしてしまう人がいる。それを恥じて反省するならまだしも、「従業員を信じていますから」「従業員の自主性を引き出すのがリーダーの役割」などとうそぶくのは、まったく始末が悪い。

 

組織が順風満帆の時は、従業員を信じ、自主性に任せることでなんら問題ない。しかし、右に行くか左に行くかわからないときに、「好きにしろ」と言われたら、従業員は困ってしまう。ここぞというときに決断し、明確に指示を出すのがリーダーの第一の役割だ。

 

西野監督は、状況が分刻みで変化する中、選手任せにせず、決断した。それを、途中交代の長谷部選手を通してピッチ上のメンバーに徹底した。さらに翌日、選手たちに観客からブーイングを浴びる事態を招いたことを謝罪した。これらは、頭ではわかっていても、なかなかできることではない。

 

今回の選択の良し悪しは、人の立場によって異なる。しかし、西野監督が決断したという事実は、ビジネスに携わる人、とくにリーダー的な立場の人には大いに参考になる。どうせ議論するなら、決断の良し悪しでなく、決断の進め方やリーダーの役割について考えて欲しいものである。

 

(2018年7月2日、日沖健)