“もったいない”ではいけません

 

独身男性太郎さんは、キャバクラで出会ったキャバ嬢の花子さんをいたく気に入った。太郎さんは、花子さんを彼女にできたら500万円相当の満足感が得られると考え、キャバクラ通いを始めた。

 

太郎さんは、週1ペースで店に通って毎回数十万円を使い、花子さんの誕生日には数十万円のプレゼントを贈り(なぜか半年間に3回!)、必死にアタックした。しかし、花子さんは「かなり太郎さんに気持ちが傾いてきた」と言うだけで、なかなか彼女になってくれない。そうこうしているうちに半年が経ち、花子さんのために使った金額は500万円に達した。

 

ここで太郎さんは、このままキャバクラ通いを続けるべきか思案した。太郎さんの見込みでは、最近花子さんと親密度が増しており、あと300万円使えば彼女にできそうだ。

 

さて、太郎さんの取るべき選択は、次の3つのどれか。

 

    500万円も使ってもったいないし、今さら後に引けないからキャバクラ通いを続けよう。

 

    あと300万円使って花子さんを彼女にできても合計800万円かかり、満足度500万円を差し引いた収支は300万円赤字だ。赤字になる前にキャバクラ通いをやめよう。

 

    あと300万円使えば500万円分の満足が得られる。今後かかる費用よりも満足の方が大きいから、キャバクラ通いを続けよう。

 

管理会計で考えると、正解は③。太郎さんは引き続き花子さんにアタックするべきだ。これまで使った500万円はサンクコストとして無視し、花子さんを彼女にできたときの満足度500万円が今後追加的にかかる費用300万円を上回るからだ。

 

すでに支出が決定しており、回収不可能な費用のことをサンクコスト(sunk cost埋没原価)と言う。意思決定においてサンクコストは考慮してはいけない。意思決定によって得られる将来の収益(未来収益)と将来の費用(未来費用)を比較して決定するのが正しい考え方で、「もったいない」の精神の①は間違っている。

 

②については、そもそも太郎さんと出会った時に考えた見込み・計画を反省する必要がある。本当に花子さんに500万円の満足度があるのか、いくら掛ければ彼女にできると見積もったのか、という点だ。しかし、それは将来太郎さんが別の女性にアタックする時に生かすべきことで、半年たった現時点での花子さんに関する判断理由にはならない。

 

500万円使って花子さんを彼女にできなかったのに、さらに300万円掛ければ大丈夫と言われても説得力はない」という反論があろう。もちろん、ここまでの花子さんのアタックの方法が適切だったのかどうかを確認する必要がある。ここまでのやり方を振り返り、反省点を踏まえて300万円を使う必要がある。常識的には、今まで500万円掛けてもだめだったというなら、抜本的にやり方を見直す必要がある。

 

以上ややふざけた例を出したが、以前にもこのコラムで書いた通り「サンクコストを忘れろ」は、あらゆる意思決定に当てはまる管理会計の重要な教えだ。うまく行っていないことを、「これまで掛けたコストがもったいないから」と続けるのではなく、将来のメリットとデメリットを比較して決定するべきである。

 

さて、サンクコストと関連して気になるのは、北朝鮮の核開発問題。北朝鮮は、金日成に始まり親子3代にわたって核開発を進め、アメリカを射程とするICBMが完成に近づいている。今年に入って日韓首脳会談を開催するなど急速に雪解けムードが高まり、来週には史上初の米朝首脳会談が実現するが、さて成果の方はどうか。金正恩には、くれぐれも「親子3代これまで莫大な開発費を掛けてきたから、やっぱり核開発に突き進むしかない」という判断にならないよう祈りたいものである。

 

(2018年6月4日、日沖健)