採用活動は今後どう変わるか?

 

 

今週6月1日、新卒採用の面接・試験が解禁になる。今年の企業の採用活動(従業員の就職活動)は、若年層の人口減少と景気回復から、空前の売り手市場である。解禁前にすでに多くの企業が採用面接を終え、内定を出しているが、有名企業・大手企業でも、採用に苦戦しているらしい。まして中小企業の場合、募集人数がまったく埋まらず、お手上げ状態というケースが多いようだ。

 

この春、企業経営者と会うたびに、新卒採用について意見を伺った。地方の中堅企業の経営者から興味深い話をいくつか聞いたので紹介しよう。

 

まず、ある専門商社は、来年から一般公募を止め、コネ採用のみにするという。現在、マイナビを利用し採用活動しているが、5名程度しか採用しておらず、一人当たりの採用費用は数百万円に達する。コスト的にバカバカしいので、コネ採用だけにし、採用費用が浮いた分は従業員の待遇改善に回すという。

 

ある金融サービス会社は、新卒採用を止めて、今後は中途採用のみにするという。せっかく採用した新人が3年以内に半数以上退職しているからだ。新卒採用を止め、採用費用と新人の教育コストが浮いた分を中途採用社員の採用や成果型報酬の引き上げに回すという。

 

ある電子部品メーカーは、日本人の採用を絞って、ベトナム人・タイ人の採用を拡大するという。同社はベトナム・タイに工場を展開しており、人件費が高く働かない日本人よりも人件費が安く勤勉なベトナム人・タイ人を主体の会社にしていくという。

 

こうした会社に対しては、コネ採用だけの閉鎖的な会社になってしまって良いのか、新卒採用は企業の社会的責任ではないのか、日本を捨てるのか、といった批判があろう。

 

しかし、新卒採用がイビツな状態になっている今、中堅・中小企業が生き残るためには、合理的な判断だと言えるのではないか。

 

イビツというのは、新卒採用と新人教育に莫大なコストが掛かる、コストを掛けても優秀な新人を採用できない、採用しても数年で辞めてしまう、ということだ。金を掛けて効果がないなら、無理して新卒を採用するのではなく、中途採用主体に切り替えよう、将来的にはAIや外国人に働いてもらおう、という話になる。

 

さて、この動きがどこまで広がるだろうか。今は新卒採用が壊滅的な状態にある地方の中堅・中小企業に限られた話だが、大企業を含めて日本全体に広がるのか。この話を何人かの大手企業の人事担当者に聞いてみた。「われわれ大企業には関係ない」という反応を予想していたが、コネ採用以外は肯定的な意見が多かった。

 

「たくさん頭数を確保するには新卒一括採用は有効。ただ、それ以外はまったく非合理な仕組みです」

 

「長期的には大企業も含めてそうなるんじゃないですか。新卒一括採用を止めるというとさすがに世間から批判されますが」

 

つまり、新卒採用は、大人数を採用するには効率的だし、社会的責任や世間体もあるので続けているが、かなり非合理な慣行で、企業の負担になっている。きっかけがあれば、雪崩を打って中途採用や外国人採用に変わっていく可能性がある。

 

以前このコラムでも考察したように、従業員の能力開発を進めるうえで、日本独特の新卒一括採用は優れた仕組みだ。ただ、それは社会全体として言えることであって、個々の企業の判断としては、新卒一括採用の負担は無視できなくなっている。

 

今後、採用活動がどう変わっていくか、大いに注目されるところだ。

 

(2018年5月28日、日沖健)