最初の勤め先はどこまで重要か?

 

先日、会社勤務時代の先輩が退職されるということで、ご一緒し一献傾けた。私が日本石油(現・JXTG)を辞めたのは16年前なので遠い昔話が中心だったが、改めて今の自分があるのは会社勤務で色々な経験をさせていただいたおかげだと再認識することができた。

 

日本石油は、売上高数兆円の大企業なのに、当時、大卒・院卒の新入社員は事務系・技術系を合わせて約60人だった。人数が少ないため、新人への教育・指導は懇切丁寧だったし、20代で代理店の与信管理、会社の経営企画、資金調達といった高度な仕事を担当することができた。その経験が今、コンサルティングや研修の業務をする上で大いに役立っている。

 

ところで、本日4月2日、多くの会社で入社式が行われる。また、来年の入社に向けたは就職活動がたけなわである。SNSや就職・転職サイトでは、「最初の勤め先は人生においてどこまで重要か?」と議論されている。

 

私が新入社員だった昭和末期と違って、今は若い世代の転職が非常に盛んになっている。「第二新卒」という言葉もあるように、企業も積極的に20代の若手を中途採用している。最初に入った会社が自分に合わないとわかったら、さっさと転職すれば良い。

 

以前は転職市場が発達していなかったし、外資系企業が若手をあまり採用していなかった。そのため、最初に入った会社を数年で辞めると、再就職では給料・待遇など不利になることが多かった。とくに大企業が中途採用に消極的だったので、大企業を退職すると中小企業・零細企業に転職するしかなく、給与が激減するのが常だった。「転職=転落」だった。

 

しかし、状況は大きく変わり、年金・退職金を除いて転職による不利がほぼなくなった。逆に転職がステップアップになるケースも目立つ。先ほどの質問への答えは、「以前ほど重要ではない」ということになろう。わけがわからず入った最初の会社で人生が決まってしまうのは理不尽で、転職でやり直しがきくようになったのは、近年の素晴らしい変化である。

 

ただ、やり直しがきくから最初の勤め先はどうでも良いかというと、そうではない。ビジネスパーソンにとって、入社1年は極めて重要だ。どういう会社に入って最初の1年をどう過ごすかが、良くも悪くもその後の人生をかなり規定するからだ。新入社員の1年は、時間的には約40年間続く会社生活のわずかな部分だが、重要性という点では、40分の1ではなく、2分の1以上を占めるのではないだろうか。

 

最初の1年で基本スキルや仕事の臨む姿勢・考え方をしっかり身に付けると、その後、能力が大きく伸びる。「こいつは良いぞ!」という評価が後々ついて回る。逆に1年目をボーっと過ごしたり、間違ったことを身に付けると、その後も伸びない。悪い評価が定着してしまう。評価については転職でリセットできるが、能力成長の遅れを取り戻すのは容易でない。

 

ビジネスパーソンの成長という観点から好ましくないのは、売上高の規模から見て大量採用をする会社と低収益の会社だ。ブラック企業は、退職者が続出することを見越して大量採用する。そういう企業は、社員1人当たりの教育費用が少ないし、「辞めて元々」とこき使われ、使い捨てされる。低収益企業は、人件費削減のために採用を絞るので、新人は何年経っても職場で一番下っ端で意味のない下働きを押し付けられ、スキルが伸びない。教育にも金をかけない。

 

程度の低い学生は、目先の給料と残業時間を気にする。中程度の学生は、教育制度があるかどうかをチェックする。程度の高い学生は、経験や教育を通して成長できるかどうかを見極める。もちろん、会社に入ってみないとわからないことが多く、見極めは難しいのだが、大量採用かどうか、低収益かどうかくらいは、学生でも簡単にわかるだろう。

 

入社1年目がビジネスライフで最も大切な1年であること、その最初の1年を過ごす最初の勤め先が重要であることは、昔も今も変わらない。転職社会で「嫌なら、はい次」という風潮の今だからこそ、逆に最初の勤め先の重要性を認識してほしいものである。

 

(2018年4月2日、日沖健)