業績=ベクトル×能力×モチベーション

 

働き方改革では、残業削減、女性活躍、高齢者活躍、テレワークなど色々な論点が議論されている。しかし、突き詰めると、最終的に目指すのは生産性向上であろう。今後、少子化で若い働き手が激減していくし、長時間労働を見過ごせない。少ない労働力、短い労働時間で成果を維持・向上し、生産性を上げるしかない。日本は国際的に見て労働生産性が低いことが知られており、抜本的な対策が必要だ。

 

ただ、どうすれば良いか、何から手を打つべきなのか、という各論になると、問題山積で途方に暮れている企業が多いのではないだろうか。

 

ここで、ある経営者から伺った次の等式は、生産性を高めるために何をするべきかを考える上で有効だ。

 

業績=ベクトル×能力×モチベーション

 

個人の業績は、ベクトル・能力・モチベーションという3要素の掛け算で決まるというわけだ。ベクトルとは方向性、つまり、右に向かうか左に向かうか、前に進むか後ろに退くか、という判断だ。モチベーションとは、能動的に業務に取り組む意欲である。

 

いくら能力とモチベーションが高くても、右に行くべきところを左に向かっては、成果は実現できない。ベクトルが正しく、モチベーションが高くても、能力が低いと成果は出せない。ベクトルが正しく、能力が高くても、モチベーションが低くては成果に結びつかない。

 

3つの要素が足し算でなく掛け算になっているというのがポイントだ。どれか一つでもゼロだと、全体の業績がゼロになってしまう。なお、かつての農業社会・工業社会では、モチベーションが低くても、「今日はだるいなぁ」とぼやきながら手を動かし作業することができた。モチベーションは足し算・引き算だった。

 

業績=ベクトル×能力+モチベーション

 

ところが今日、知識社会になり、頭を使って考えるという作業が主体になると、モチベーションが低くては考えることができず、成果を出せない。モチベーションは、掛け算になったのだ。

 

企業の経営者・マネジャーは、この3つをバランスよく維持・向上させる必要がある。そのためには、まず自社・自職場の3つの要素の状況をチェックし、ボトルネックになっている要素を把握することだ。すでに満たされている要素に労力を使うのは非効率で、ボトルネックになっている要素に重点的に対処する。

 

経営者やマネジャーは、よく「自分の会社のことだし、3つのどれが強いか、弱いか、ちゃんとわかってるよ」と言う。しかし、自社のことは、意外とわかっていないもので、他社と比較して十分に能力が高いのに、「人材育成こそ成長の基盤、もっと教育訓練を充実させよう」としているといったケースがたびたびある。ここは、外部専門家の診断テストやアセスメントを活用し、客観的に評価するのが得策だ。

 

生産性とはインプット(経営資源の投入)とアウトプット(業績)の割合である。働き方改革というと「ほどほどに手を抜いて仕事して残業しないこと」という理解で、インプットを減らすことばかりが注目されている。「業績=ベクトル×能力×モチベーション」で、アウトプットを引き上げる方向での改革も期待したいものである。

 

(2018年3月19日)