このたび『ロジカルコミュニケーション77』と題するビジネス書を刊行した。説明・プレゼンテーション・会議・対話・交渉といったビジネスの代表的なシーンについて、ロジカルなコミュニケーションの進め方を77のQ&Aで解説している。
ビジネスは、上司・部下・顧客・関係部署といった関係者とのコミュニケーションで成り立っており、コミュニケーションの巧拙が成果を左右する。しかし、職場のコミュニケーションはなかなか難しいようで、多くのビジネスパーソンがコミュニケーションがうまく行かず悩んでいる。大事なプレゼンテーションで失敗した。部下との対話がなかなか深まらない。報告書がうまく書けない。非効率な会議に時間を奪われている・・・。
こうした様々な問題があるにもかかわらず、職場ではコミュニケーションの進め方を体系的に学ぶ機会がなく、勘と経験、見よう見まねで仕事を進めている。ビジネスパーソンの皆さんには是非とも本書をお読みいただき、コミュニケーションをレベルアップしていただきたい。
ところで、職場でのコミュニケーションで個人的に残念に思うのは、マインド・姿勢の重要性が過度に強調されていることだ。上司からは、「真心を込めて気持ちを伝えれば、道は開ける」「とにかく相手の懐に飛び込んで行け」という叱咤が飛ぶ。
たしかに、コミュニケーションにおいてマインド・姿勢が重要であることは間違いない。人間は感情の動物なので、人と人の関係は、マインド・姿勢のあり方で大きく変わってくる。
しかし、逆にマインド・姿勢が良ければ良いコミュニケーションができるかというと、そうとは限らない。いくら心が通い合っている相手でも、何を言っているかわからない状態では、仕事にならない。意図していることをわかりやすく伝える、相手の意図を正確に読み取る、といったスキルも大切だ。
また、そもそも次のような相手には、真心を伝えたり、懐に飛び込んだりするのは至難の業だろう。外国人、初対面の相手、年齢が大きく離れた相手、役職がかなり上の相手、多人数の相手、自分のことを嫌っている相手・・・。グローバル化や職場の多様化などによって、こうした“伝わりにくい相手”とコミュニケーションする機会が増えている。
ビジネスで、「お客様と心が通い合えなかったから、商談がまとまりませんでした」「部下の気持ちがわからず、業務が滞ってしまいました」では困る。相手と心を通わせるのが理想だが、そうでなくても円滑にコミュニケーションを進めて成果を実現することが期待される。
ここで鍵になるのが、ロジカルなコミュニケーションだ。詳しくは本書をお読みいただきたいが、ロジカル(logical)とは簡単に言うと事象間の筋道や構造がはっきりしている状態である。主張と論拠、原因と結果、目的と手段といった筋道が明快だと、意図がしっかり伝わり、コミュニケーションがスムーズになる。
主張の言いっぱなしでなく、論拠を提示する。
問題解決策を論じる前に原因を明らかにする。
何が問題になっているのか、イシューを明らかにする。
ものごとを決める前に、論点にモレとダブりがないかを確認する。
こうしたロジカルなコミュニケーションによって、ビジネスのあり方が変わり、成果が出るようになり、人生も大きく変わってくる。「気合」「根性」「真心」「誠意」といった言葉を使いたがる人ほど、ロジカルなコミュニケーションを学び、実践してほしいものである。
(日沖健、2017年12月25日)