元勤務先との付き合い方

 

私の周囲には、企業勤務を辞めて独立開業した経営コンサルタントがたくさんいる。彼らの活動を見ていて非常に興味深いのは、元の勤務先との付き合い方が大きく異なることだ。つまり、元勤務先とはきれいさっぱり縁を切る人とかなり親密に付き合いを続ける人に分かれる。

 

元勤務先と完全に縁を切っているコンサルタントが結構たくさんいる。彼らは、次のように主張する。「会社のことがそんなに好きなら、辞めずに勤め続ければ良いではないか。独立するからには、スパッと縁を切って、心機一転新しいフィールドに進む方が良い。取りやすいところから仕事を取るという安易な姿勢では、コンサルタントとして大成しないぞ。」

 

たしかに、コンサルタントの心構えとしては、まったくその通りだろう。また、元勤務先と親密に付き合いを続けるコンサルタントは大成しない、という指摘も当っているように思う。

 

しかし、元勤務先との付き合いを続けると、以下のような現実的なメリットがある。

 

①元勤務先から仕事の依頼をいただける

 

②その産業・業界の最新情報が入ってくる

 

③人的ネットワークが広がる

 

出身業界を専門に活動している業界コンサルタントの場合、元勤務先と付き合いを続けるのは当然だ。出身業界を専門にしていない場合でも、③の効果から付き合いを続けるのが得策である。

 

コンサルティング・ビジネスは、自分から営業を掛けても受注するのは難しく、人づてに案件を紹介されることが圧倒的に多い。コンサルタントが活動の舞台を広げるには、どんどん紹介が舞い込んで来るよう幅広いネットワークを持つことが欠かせない。

 

組織に属さない個人がゼロから幅広いネットワークを形成するのは、容易なことではない。もちろん、SNSの時代なので、ライトな関係の友達を作ることはできるが、「この人に会社の将来を決める重大な経営相談をしよう」と確信できる深い関係になるには、相当な労力と時間を要する。

 

一方、会社に勤務していると、特に努力しなくて社内外のネットワークがどんどん広がっていく。とくに大企業は、幅広く事業活動をし、色々な利害関係者とかかわるので、地域の中小企業とは人的ネットワークの広がりが段違いだ。

 

退職した後も会社との関係を持ち続けると、会社勤務時代に培ったネットワークを維持することができる。これは、コンサルタントがビジネスを展開する上で貴重な財産になる。

 

私の場合、15年前に日本石油(現・JXTG)を辞めてコンサルティング事務所を開業した後、当初は元勤務先との付き合いを避けていた。しかし、9年目くらいから元勤務先から色々とお声掛けをいただくようになり、今は少し親密にお付き合いしている。上に挙げたメリットもあるが、それよりも、今の自分が形作られたのは企業勤務時代の経験によるところが大きいので、あえてその経験や恩義を否定する必要はないと考えている。

 

ここまでコンサルタントというマイナーな世界の話をしたが、会社員が転職する場合もまったく同じではないだろうか。どんな職業でも、良い仕事をするには良いネットワークを持つことが望ましい。人的ネットワークは、企業勤務で得られる最大の財産の一つだ。会社を辞めたら元勤務先とはプッツリ音信不通という人をよく見受けるが、せっかくの貴重な財産を自らドブに捨てているに等しい。

 

会社を辞めるときには、できるだけ喧嘩別れせず、人的ネットワークを維持すると良い。といっても、自立心や新しいフィールドに踏み出す挑戦心は忘れず、適度な距離感で付き合いを続けたいものである。

 

(日沖健、2017年12月18日)