人を紹介する難しさ

 

若手の経営コンサルタントや中小企業診断士の方から、よく「コンサルタントの仕事で何が一番難しいですか?」と聞かれる。もちろん答えは人それぞれで、絶対の答えはないのだが、私は迷わず「お客様にコンサルタントを紹介することです」と答える。

 

コンサルタントがコンサルティング・研修・セミナーといった仕事を受注する際、見込み顧客から直接引き合いが来る場合もあれば、受注機関・知人・他のコンサルタントなど第三者を介して引き合いが来る場合もある。おそらく圧倒的に多いのは、第三者を介しての引き合い、とくに他のコンサルタントからの紹介である。

 

コンサルタントは何らかの専門性を持って商売しているが、舞い込んできた案件が自分の専門性と合致しているとは限らない。たとえば私なら、新規事業の創造や中期経営計画の立案といった依頼は大歓迎だが、ITシステム構築や賃金テーブル作成といった依頼が来たらお手上げだ。

 

「引き合いが来たらすべて自分で引き受けるべきだ」という意見もあるようだ。たしかに自分の収入や経験を通しての成長という点では引き受けた方が良いが、顧客に迷惑をかけるわけにもいかない。やはり、不得手な分野の引合いが来たら、他のコンサルタントを探し、顧客に紹介することになる。

 

適切なコンサルタントを紹介すると、「やっぱり日沖さんに相談して良かった」ということで、顧客からの信頼が高まる。逆に不適切なコンサルタントを紹介すると、顧客からの信頼が低下してしまう。その長い積み重ねが自分自身のコンサルティング・ビジネスの発展を左右する。冒頭でコンサルタントを紹介することを「仕事」としたのはそういう意味だ。

 

ただ、信頼できるコンサルタントを顧客に紹介するのは、容易なことではない。

 

まず、顧客はコンサルタントに専門的な知識・スキルを要求するが、他のコンサルタントがどういう専門性を持っているのか、なかなかわかりにくい。たとえば、私の元に「人事制度構築」という案件が来たら、人材ポートフォリオ・育成方針・研修体系を作るという概論的な話なら自分が引き受けるが、賃金テーブルを作成するという具体的な話なら他のコンサルタントを探す。ここで、人事コンサルタントを名乗っていても、実際に企業の人事部門で働いて賃金テーブルを作った経験があるコンサルタントは意、外と少ないのが実態だ。

 

また、専門性だけでなく、人間性も問題になる。というより、専門性があっても人間性に問題があるようではだめだ。コンサルティングは、経営者など顧客の悩みごと相談であり、顧客は人として信頼できるコンサルタントにしか悩みを打ち明けない。コンサルタントは、人柄が良いだけでなく、顧客と真摯に向き合う姿勢がないと顧客から信頼してもらえない。

 

コンサルタントを顧客に紹介するには、そのコンサルタントのことをよく知る必要がある。経歴書を見れば大まかなことはわかるが、真の専門性や人間性まではなかなかわからない。

 

実は7年前、自分の手に負えない案件が来て、あまりよく知らないコンサルタントを紹介したところ、そのコンサルタントの仕事がプアで顧客の不評を買ってしまった苦い経験がある。それ以来、顧客に紹介する前に候補のコンサルタントとしっかり面談するようにしている。また、コンサルタントのネットワークの狭さを反省し、日ごろから中小企業診断士の勉強会に顔を出すなど、ネットワーク作りも心がけている。

 

以上コンサルティングというややマニアックな業界の話をしたが、これは一般のビジネスにも当てはまるのではないだろうか。たとえば、営業がうまく行くかどうかは、売っている製品や営業トークの良し悪しもさることながら営業担当者そのものが重要だ。顧客は営業担当者の真の専門性や人間性を見て、買うかどうかを決めている。そして、“デキる営業マン”は、質の良い人脈の紹介を武器に、顧客からの信頼を獲得している。営業担当者だけでなく、“デキる経営者”の条件も、意外とそんなところだろう。

 

たかが人脈、されど人脈。人脈の紹介に無頓着な人には、ぜひ考え直してほしいものである。

 

(日沖健、2017年10月23日)