要求・目標への従順さが不祥事の原因

 

日産・神戸製鋼所という日本を代表する大企業の品質問題が、産業界に衝撃を与えている。

 

日産は、日産はグループ6工場で、検査員の資格がない従業員が完成車検査を担当していた。国土交通省の立ち入り検査で発覚し、38車種116万台をリコールするという。

 

一方、神戸製鋼所(以下、神鋼とする)は、アルミニウム・銅製品、さらには鉄鋼製品などで検査データを改ざんしていたと発表した。取引先と決めた強度などの基準に合っていないのに、適合したかのように検査証明書を書き換えていたという。

 

今回の事件は、日産・神鋼の両社のみならず、日本企業全体の国際的な信用にかかわる問題だ。徹底的な原因究明と対策を期待したい。

 

ところで、マスコミやネットでは、「利益優先で品質を軽視した」「悪質だ」といった批判が飛び交っているが、果たしてどうだろうか。

 

原因は調査中なので断定的なことは言えないが、両社の従業員を多数知っている者としては、両社が悪意を持って不祥事を起こしたとは思えない。むしろ、両社は経営陣も従業員も非常にまじめで、要求・目標に対して従順なために、不祥事を起こしてしまったという気がする。

 

顧客からの要求は、需要の3要素、つまりQCDに集約される。1990年代前半まで、日本のメーカーの技術・品質(Quality)は世界最高水準で、少しくらい高コスト(Cost)でも、納期(Delivery)が遅くても、買ってもらえた。ところが、その後、新興国メーカーの技術水準が上がり、Qで差が付きにくくなる一方、顧客からのCとDへの要求がどんどん高まっている。

 

日産は、長く“技術の日産”と言われた。神鋼は、世界最高の強度を誇る「超ハイテン」など、技術力に強みを持つ。ともに技術レベルが高い日本のメーカーの中でも技術が自慢の会社だ。

 

今回、日産は、法令に適合しない検査員が検査を行ったが、製品の性能・品質には問題ない。神鋼も、客先と合意した基準を満たすように検査証明書を偽造したが、JRなどが引き続き神鋼の素材で作られた部品を使い続けるとおり、製品の性能・品質には大きな問題はない(と思われる)。

 

つまり、顧客からCとDの要求が高まっており、それに応えなければならない。Qはすでに十分なレベルにあるんだから、ちょっとくらい手続きが不適切でも問題ないじゃないか。「別に顧客に迷惑をかけるわけじゃないし・・・」ということで、不正を働いてしまった・・・。

 

両社は技術を軽視したり、不真面目だったりしたわけでない。技術水準が高く、顧客要求に対して従順だったので、不正を働いてしまったのだ。

 

もちろん、悪気があってもなくても、不正は不正だ。今後、厳しく改めていく必要がある。問題は、何をどう改めるかだ。

 

こういう不祥事が起こると、弁護士やリスク管理コンサルタントに依頼してコンプライアンス研修を実施するのがお約束だ。しかし、それで終わりにしてはいけない。

 

ここまでの分析が正しく、顧客からの要求目標に従順であることが真の問題だとしたら、目標の立て方や共有の仕方などを抜本的に改める必要がある。

 

日本では、経営者は顧客からの要求に、従業員は上司からの目標に従順だ。顧客から原価低減や納期を要求されたら、何とか達成するよう部下に必達目標を出す。上司から必達目標を与えられたら、従業員は何とかそれを達成しようと徹夜で頑張る。要求・目標が所与の条件になっている。

 

しかし、顧客からの要求や上司からの目標が正しいとは限らない。顧客・上司からの要求・目標が理不尽ではないか、ルール・法令を犯してまで応じる価値があるのか、要求・目標を見直す余地はないのか、など要求・目標を受け入れる前にじっくり検討する必要がある。これらは、コンプライアンスなど意識・姿勢の問題というより、目標を設定する意思決定プロセスの問題である。

 

今回の事件は非常に残念だが、これをきっかけに日産・神鋼だけでなく、日本企業の意思決定を改革し、10年後、「あの事件をきっかけに日本企業が生まれ変わり、復活した」となってほしいものである。

 

(日沖健、2017年10月16日)