船井電機・船井哲良氏の思い出

 

船井電機の創業者・船井哲良相談役が4日に亡くなられた。90歳だった。船井相談役は1951年に24歳の若さで起業し、一代で国際的な家電ブランド・FUNAIを築き上げた名経営者である。ご冥福をお祈りします。

 

私は、生前の船井元社長に1度だけお会いしたことがある。12年前に大阪府大東市の本社で1時間ほどお話しした。そのときすでに78歳だった船井社長(当時)は、自分の後継者を育成する選抜型研修プログラムの導入を検討していて、私に声がかかった。

 

私が研修プログラムの提案を一通り説明したところで、船井社長が私に次のように聞いてきた。

 

「ところであんた、(ライブドアの)ホリエモンと(楽天の)三木谷のどっちが好きや?」

 

私が「どちらもあまり好きではありません」と正直に答えると、船井社長は次のように言った。

 

「そうか、ワシは断然ホリエモンやな。三木谷は興銀の出身で、ハーバードに留学したことがあるエリート。財界の首脳とも仲良くやってるようで、起業家と言っても体制の内側の人。一方ホリエモンは、東大を中退して裸一貫で起業し、既存の秩序をひっくり返そうと頑張っとる。ワシはホリエモンのような気概のある後継者が出てきて欲しいと願っている。」

 

このやり取りがまずかったせいか、私の提案は不採用だった。船井電機が他の講師で後継者育成研修を実施したのかどうか定かでない。ただ、その後、社外から後継社長を招聘したものの定着せず、船井相談役が昨年まで会長として実権を握り続けた通り、後継者育成にはずいぶん苦労したようである。

 

船井社長と会ったときは、「やっぱり経営者は、自分と同じタイプの後継者を求めるんだ」「そういう気概のある人はサラリーマンをせず、さっさと起業しているのでは?」というくらいのことしか考えなかった。

 

しかし、最近になって、船井社長の言葉を深く噛みしめるようになった。

 

まず、「サラリーマンに気概のある人はいない」という認識は完全に間違っていると思う。もちろん、平均値で言うと、平均的なサラリーマンは平均的な起業家よりもはるかに気概がない。しかし、組織の中でチャンスを与えられていないだけで、大きな夢・野望と斬新な発想を持っているサラリーマンにその後何人もお会いした。そういう人材を発掘し、チャンスを与えてあげることは、経営者の重要な役割だと思う。

 

そして何より、いま日本に必要なのはホリエモン型のリーダーだと思う。①何も変えない前任者踏襲型リーダー、②前任者が作った既存の秩序の中で改善に努めるリーダー、③既存の秩序をぶち壊し改革するリーダー。この3タイプのうち、①は論外だが、日本では「これまでのやり方を発展させて経営を立て直してくれよ」と②の後継者に後を託すことが多い。しかし、1990年代までの成功体験が行き詰まりを見せている多くの日本企業で必要なのは、③のホリエモン型リーダーであろう。

 

船井電機は、戦後長く低価格路線で成長してきたものの、1990年代後半以降、アジア新興国のメーカーが力を付けてきて、優位性が低下してきた。おそらく船井社長は、自分の経営が限界に直面していることを認識していたのだろう。自分の路線を踏襲する“縮小コピー”ではなく、自分を否定する破壊的な後継者を求めていたのではないだろうか。もちろん、今となっては船井元社長の真意を確かめる術はないのだが・・・。

 

船井相談役は、自社の将来と後継者のことを案じながら亡くなられた。あの松下幸之助翁も、日本の政治のことを案じながら亡くなられた。船井相談役や松下幸之助翁と言えば戦後の日本を代表する成功者だが、成功者といえども人生の最後まで悩みは尽きないようだ。船井相談役には、天国でゆっくり俗世の疲れを癒していただきたいものである。合掌。

 

(日沖健、2017年7月10日)