未成年の経営者はアリか?

 

将棋の藤井聡太四段がプロ棋士の連勝記録を破り(昨夜、連勝はストップしたが)、社会現象になっている。藤井四段は中学3年生で14歳である。一方、先月、加藤一二三元名人が引退した。加藤元名人は77歳で、現役最年長だった。藤井四段と加藤元名人は、藤井四段のプロデビュー戦で昨年対局した。14歳と77歳が同じ土俵で真剣勝負を繰り広げるというのは、将棋の魅力の一つだろう。

 

ところで、ビジネスの世界は、将棋とはずいぶん異なる。日本の社長の平均年齢は61.2歳に達し、全社長の24%を70歳以上が占めている通り(いずれも東京商工リサーチ調べ)、77歳の経営者はまったく珍しくない。しかし、中学生の経営者はほぼ皆無で、未成年の経営者も数えるほどだ。経営者に年齢の制約はあるのだろうか。

 

まず最低年齢。労働基準法は企業が中学生を雇用することを禁じており、中学生がサラリーマン社長に就任することはない。起業については、年齢を直接的に制限する法律はないが、会社設立のためには印鑑証明が必要で、満15歳以上でないと印鑑証明を取得できない。事実上、「満15歳以上」が経営者の最低年齢である。ただ、イギリスで8歳の社長が話題になったように、世界的には社長の年齢制限がない国が多い。

 

一方、最高年齢の方は、何も法的な制限はない。本人にその気があり、株主が認めれば、年齢に制約されず経営者を続けることができる。これは万国共通だ。

 

以上は法的な制約の話だが、実際の企業経営において、未成年の経営者や高齢の経営者には問題があるだろうか。高齢の経営者の問題点についてはすでに色々と議論されているので、ここでは未成年の若い経営者の是非を考えてみよう。

 

未成年の経営者の最大の長所は、既存の価値観にとらわれず、斬新な発想や感性で事業展開できることだ。ビジネスでは経験が必要だが、逆に経験が邪魔して自由に事業展開ができないことがある。とくにIT・ゲーム・音楽・ファッションといったビジネスでは、発想や感性が重要で、主要顧客が同世代であることから、未成年の経営者に優位性がある。

 

一方、未成年の経営者の短所は、ビジネスの経験や人的ネットワークが乏しい(ない)ことである。経験に頼りすぎてはいけないが、良い意思決定・問題解決・リスク管理をするには、経験が大きな力になる。また、ビジネスは色々な関係者と協力して進めるので、人的ネットワークの欠如はマイナスだ。

 

ということで、未成年の経営者の長所・短所を比較検討すると、短所に目が行き、「やっぱり40代、50代くらいの若すぎず高齢すぎない経営者がベスト」という常識的な結論になる。

 

ただ、経験と人的ネットワークの不足が決定的なデメリットになるかどうか疑わしい。ライフネット生命は、30歳だった岩瀬大輔が保険業界での経験が豊富な出口治郎(当時58歳)と共同で起業したように、ベテランのパートナーの力を借りてこの問題を解決することができる。若い経営者のメリットは大きい一方、デメリットは克服可能と言えるのではないか。

 

日本では、高度成長期に創業した社長が高齢化し、社長の平均年齢は年々上がっている。後継者難で仕方なく続けている場合もあるが、子息など後継者候補がいるのに「息子はまだまだ経験不足で任せられない」と社長を続けている場合も多い。そういう高齢経営者は、思い切って経営を譲り、自分はすっぱり辞めるか、若い後継者のサポート役に徹することを期待したいものである。

 

後継者問題よりも心配なのは、日本では若い起業家がまったく少ないことだ。マイクロソフトのビル・ゲイツやフェイスブックのマーク・ザッカーバーグが学生時代に起業して社会を大きく変えたように、世界では若い起業家を続々登場している。既存のビジネスを漸進的に発展させるのは経験あるベテラン経営者だが、世の中に新しい価値をもたらすのは若い起業家だ。長期低迷が続く日本に何より必要なのは、デフレ脱却でも働き方改革でもなく、若い起業家の出現ではないだろうか。

 

表題の「未成年の経営者はアリか?」という問いへの答えは、「アリも大アリ、どんどん出てきてほしい」になる。藤井四段や卓球の張本智和選手の活躍に刺激を受けた若者が、どんどん起業に挑戦してほしいものである。

 

(日沖健、2017年7月3日)