曲がり角を迎えた日本のMBA

 

中京大学は、2017年4月からのMBAコースの学生募集を停止した。2003年にMBAを開設し、13年間に渡ってコースを運営してきたが、学生の募集がうまく行かなかったようで、併設の中小企業診断士養成課程と併せて廃止するという。噂によると、他にもいくつかの大学がMBAコースの廃止を検討しており、文部科学省は日本のMBAのあり方について強い問題意識を持っているらしい。

 

アメリカには大小500以上のMBAがある。かつて日本では、慶応大学にしかMBAがなかったが、2000年以降、主要都市に次々とMBAが設置された。とくに夜間コースが設置されたことで、働きながらMBAに通う社会人学生が増えた。しかし、今回の中京大学の募集停止などで、拡大路線を突き進んできた日本のMBA教育は大きな曲がり角を迎えた印象である。

 

中京大学だけでなく、一部の有力校を除き、多くの学校が生徒集めに苦戦しているという。MBAが増えたが、MBAに挑戦する社会人は期待したほど増えなかったということだ。

 

夜間コース、さらには土日集中コースが増え、多忙な社会人でも通いやすくなった。MBA受講者には厚労省から教育訓練給付金が最大96万円支給されるようになり、学費の負担も軽減された。にもかかわらず応募者が伸び悩んでいるのは、「MBAを取ってもあまりメリットがない」という市場の評価が定着してしまったのではないだろうか。

 

MBAのメリットというと、まずは給料の増加である。かつて日本にMBAが少なかった頃、海外でMBAを取得した者はエリートで、外資系企業などに転職することで大幅に給料が増やすことができた。ところが、MBAが大衆化するにつれて、MBAホルダーというだけでは転職市場での武器にはならなくなっている。

 

また、MBAを取得しても現在の勤務先で昇給・昇進しないという状況は、昔も今もまったく変わっていない。学費を会社負担して社員をMBAに派遣している企業ですら、経営者や人事部門は「勉強は勉強、仕事は仕事。MBAを取ったからといって特別扱いはしない」と明言している。

 

目に見える形で給料が増えなくても、MBA取得でビジネスパーソンとしての実力が飛躍的に向上するなら、大きなメリットと言える。しかし、この点でも日本でMBAを取得したホルダーたちの満足度は全般に低いようだ。

 

MBAで学んでも社会人の能力が上がらない一つの原因は、教員の質が低いことだ。社会人の能力を上げるためには、理論だけでも実践だけでもダメで、理論と実践の両方をバランスよく教える必要がある。アメリカの場合MBAの教員の多くは、学問の世界と民間企業の間を行ったり来たりして、キャリアを形成する。それに対し日本では、企業勤務経験のないアカデミックな正教員を主軸に、企業勤務経験はあるが学問的な見識がない実務家教員が補助的に科目を担当している。両方合わせればバランスはとれているが、理論と実務の両方に卓越した教師は極端に少ない。

 

もう一つ、国際性が低いことも日本のMBAの弱点だ。グローバル化の時代に、グローバルな視野を養うことや世界規模のビジネスリーダーのネットワークを持つことが重要だが、日本では一橋大学など一部を除きプログラムも学生も国際性が低い。そもそも、夜間に慌ただしく授業に出席するだけで終わってしまい、強力なネットワークを形成するまでには至らない。

 

法科大学院と会計大学院は、2000年以降学校設立ラッシュが起こったが、弁護士や会計士に対するニーズは増えず、多くの学校が募集停止に追い込まれた。MBAも同じ轍を踏むのだろうか。

 

日本のMBAが発展し、社会人の人材育成に貢献するようになるには、各校が教員・プログラムの質を上げる必要がある。海外からの留学生を増やすには、学費・滞在費の補助など政策支援が欠かせない。改革は待ったなしと言えよう。

 

(日沖健、2017年5月1日)