東芝は、先週29日、子会社ウェスチングハウスを破産処理することを発表した。そして翌30日に臨時株主総会を開催し、半導体事業を分社化し売却することを決めた。2017年3月決算で1兆円超の巨額の損失を計上するが、経営危機に陥った原因を遮断し、半導体事業を売却した資金で経営を立て直していく方針だ。虎の子の優良事業を切り売りした東芝がどう経営を立て直すのか注目される。
ところで、今回の一連の騒動で個人的に気になるのは、東証や行政・司法が東芝に対して寛大なことだ。
東芝は、3月14日に予定されていた第3四半期決算の公表を延期した。米原子力発電子会社ウェスチングハウスを巡る内部管理体制の調査に時間がかかるためだという。元々は2月14日に公表する予定だったので、これで2度目の延期である。東芝の決算発表延期は、今回だけではない。2015年に不正会計問題が発覚した際にも、2014年度末決算の発表を2度に渡って延期している。
2015年の不正会計は、完全な粉飾決算であった。ウェスチングハウスでも粉飾決算が行われていた。短期間で2度も大規模な粉飾が行われていたわけだ。
株主・債権者など利害関係者は、決算を見て企業と取引をするかしないか判断する。正確な決算をタイムリーに公表するのは、企業の重大な責務である。決算発表延期や粉飾決算を何度も繰り返すのは、極めて異常な事態だ。
ところが、今のところ東証(東京証券取引所)や行政・司法は東芝に対しこれといったペナルティを課していない。検察は2015年の不正会計を刑事事件として捜査すべきだったのに、「経理部門の不正」とする東芝の言い分を認め、うやむやにしてしまった。ウェスチングハウスの粉飾決算についても、「実態が掴めない」「国外子会社の話」という東芝の言い分を受け、捜査する気配すら見せていない。そして財務省は、東芝の求めに応じて決算発表延期を繰り返し認めている。
ライブドアは2006年、増資を巡って有価証券報告書虚偽記載の罪を問われ、一発で上場廃止の処分を受けた。堀江貴文社長は刑務所送りになった。東証・行政・司法の東芝への対応は、ライブドアとは天と地ほど違う。
東証や行政・司法が東芝に対して寛大なのは、一言「日本を代表する名門大企業だから」ということだろう。
1997年創業のライブドアと違って、東芝は1875年創業の名門で、“財界総理”と呼ばれる経団連会長を2人も輩出している(石坂泰三氏と土光敏夫氏)。もちろん、経団連から圧力があったわけではないだろうが、東証や財務省としても、“日本代表”の東芝を処分して日本企業の凋落を内外に印象付けたくない、という気持ちが働いたのだろう。最近はやりの忖度に近い。
また、東証・財務省・検察が「Too big to fail(大きすぎて潰せない)」を意識したことも間違いない。東芝グループの従業員数は18万7千人に達する。従業員の家族や取引先などを含めると、百万人規模の国民が東芝の浮沈の影響を受ける。東証・財務省・検察は、国民から嫌われていたライブドア・ホリエモンのときと違って、厳しい処分を課して東芝破たんの引き金を引き、世間の批判を浴びたくない。
しかし、こうした東証・行政・司法の寛大な対応は、今後の日本経済に大きな禍根を残すことになるように思う。
一つは、取引所の透明性に疑問符が付くことだ。近年、東証では海外企業の上場廃止が相次ぎ、どんどんローカル市場化している。それに加えて伝統企業には甘く、新興企業には厳しいとなると、有望な新興企業は東証への上場を回避し、海外市場に上場するようになるだろう。
もう一つは、海外投資家が“変われない日本”の象徴と受け止めることだ。この数年アベノミクスで東京市場は堅調だが、円安頼みで、日本企業の事業構造が大きく変わったわけではない。オールドビジネスを代表する東芝が官の力で救済されたとなると、東京市場の売買の過半数を占める海外投資家は、「やっぱり日本は変われない」と愛想を尽かし、日本企業への投資を縮小することだろう。
東証・行政・司法が今後も東芝に寛大な対応を続け、メガバンクの資金支援やグループ企業の売却が実現すれば、今後も東芝は延命することができよう。現状と大きな変化はなく、関係者は「やれやれ」というところだが、それによって長い目で見て日本が失うものは実に大きいのである。
(日沖健、2017年4月3日)