まず長時間労働の原因を究明しよう

 

働き方改革が社会的な課題になっている。とくに、昨年の電通事件以降、長時間労働を抑制、サービス残業を撲滅することが強く叫ばれている。

 

長時間労働は、労働者を疲弊させ、職務満足度を低下させる。労働生産性が低下するので、企業にとってもマイナスだ。余暇・自由時間の減少を通して、少子化を進行させたり、サービス需要を低迷させる。このように、長時間労働は労働者・企業・社会に様々な悪影響を及ぼしている。国民の関心が高まっている今、抜本的な改革を実現してほしいものである。

 

ところで、長時間労働を巡る動きで個人的に気になるのは、小手先の対策ばかりがクローズアップされて、しっかりした原因究明が行われていないことだ。「勤務を朝型に切り替えたら残業が減った」「夜8時に一斉消灯し強制的に帰社させれば、労基対策はバッチリ」といった対症療法的な事例がポツポツと紹介されている一方、長時間労働の原因を究明する議論はあまり聞かない。

 

長時間労働の原因は、①仕事の能率が低いか、②仕事量に対して従業員数が少ないか、その両方か、である。①については、無駄な会議が多い、ITの活用が進んでいない、といった問題点が断片的に指摘されているが、②はほとんど注目されていない。個人的には、①よりも②の方がより重大な問題だと思う。

 

企業では、各職場の管理職が職場の業務処理に必要な従業員数(要員数)を見積もり、人事部門に要員の配置を申請する(要員計画)。しかし、管理職の経験がある人ならご存じの通り、日本企業では、要員よりも少ない従業員しか配置されない。8名の計画を申請したら2名マイナスの6名が実配置される、という具合に常に要員計画比マイナスの状態である。

 

なぜ、経営者・人事部は要員計画通りに実配置しないのか。業務には好不況や季節性などで繁閑の波があるので、企業は繁忙期には人を増やし、閑散期には人を減らしたい。ところが、日本は先進国で最も解雇やレイオフが厳しく規制されているので、閑散期になっても雇用量を減らせない。そこで、閑散期に合わせて少なめに実配置し、閑散期以外は正社員が残業して対応するわけだ(それでも人手が足りない場合、非正規雇用を増やす)。日本では、例外的な閑散期以外は残業をするという初期設定になっているのだ。

 

この原因分析が正しいなら、取るべき対策は、企業が解雇やレイオフを容易にできるよう解雇規制を緩和することだ。解雇・レイオフが容易になれば、企業は閑散期に余剰人員を抱えこむ心配がなくなるので、安心して正規雇用を増やすことができる。労働者にとって非情だと思われるかもしれないが、残業が減るだけでなく、正規雇用が増え、非正規雇用が減り、労働者全体にとってむしろメリットが大きい(ただし、現在解雇規制で守られている大企業の正社員にはデメリットがある)。

 

一昨年、安倍政権でも解雇規制の緩和が検討されたが、「首切りを推奨するのか!」という国民や野党の感情論に押されて、早々に議論は下火になってしまった。解雇規制があるせいで正社員になれない非正規社員が解雇規制の緩和に反対しているのは、「うーん」という感じだった。しかし、長時間労働が社会問題になっている今、改めて解雇規制の緩和について検討する機は熟してきたのではないだろうか。

 

ところで、今回の件に限らず、日常のビジネスでも、問題が発生すると、原因究明をないがしろにして、解決策の実行に突き進むことが多い。とくに最近は、経営状態が厳しく、いますぐ成果が必要だという企業が増えたせいか、「のんびり分析している暇があったら、まず解決に向けて手足を動かせ!」という風潮が強まっているように思う。

 

有名なトヨタ用語「なぜを5回繰り返せ」のように、問題に直面したら、まず真因を突き止めるのが、マネジメントの鉄則だ。日本の長時間労働・サービス残業がなかなかなくらないのと同じように、原因分析をそこそこに解決策の実行を急ぐ“えせスピード経営”は、いつまでも問題が根本的に解決されず、無駄に忙しそうに立ち回る状態が続いてしまうのである。

 

(日沖健、2017年2月27日)