出光はどこへ行く?

 

出光興産と昭和シェル石油は先週13日、来年4月に予定していた合併を延期すると発表した。出光株の3分の1超を保有する創業家が合併への反対姿勢を崩しておらず、臨時株主総会での合併承認は難しいと判断した。合併の計画を撤回したわけではないものの、実現に向けた道のりは不透明となった。

 

石油業界出身の者として、今回の展開には当惑している。また、(サラリーマン時代には言えなかったが)隠れ出光ファンとして、出光を最も愛しているはずの創業家が出光を混乱に陥れていることを残念に思う。

 

創業家と代理人の浜田卓二郎弁護士(浜卓)は、出光が企業風土が大きく異なる昭シェルと合併してもうまくいかない、独自路線で生き残ることは可能だ、経営陣から合併について十分な説明がなかった、と主張している。

 

たしかに、出光は日本企業の中でも(最近は薄れたものの)独特な精神文化を持っており、元はロイヤルダッチシェルの子会社で合理主義の昭シェルとは水と油だ。日本石油とジャパンエナジーのような似た者同士の過去の合併と比べて、組織が融合して合理化効果を実現するハードルは格段に高い。

 

ただ、装置産業で製品に差別性がない石油業界は、規模の経済性で低コストを実現することが極めて大切だ。しかも国内の石油需要は、1999年にピークを迎え、2000年以降一貫して減り続けている。こうした中、経営資源の無駄を省いて効率化するには、合併による企業規模の拡大は、残された数少ない選択肢である。独自路線は勇ましいが、合併よりも暗い将来しか描けない。

 

今回の合併が実現してもしなくても、出光を始め日本の石油会社の経営が劇的に改善することはない。どちらが比較的マイナスが少ないかという選択であり、「組織を融合するのが難しい」というのは、合併を否定する理由になっていない。独自路線よりも合併の方がマシな選択肢であるなら、合併による問題点を克服しようと努めるべきだろう。東大法学部出身・大蔵省・衆議院議員という経歴を持つ頭脳明晰な浜卓がこんな簡単なロジックをわからないとは、不思議なことだ。

 

今回、創業家と浜卓は、出光の今後の経営戦略についてはあまり触れず、大株主に十分な説明をせずに合併を推進した経営陣のコミュニケーションのあり方を主に問題にしている。経営陣のコミュニケーションに問題があったかどうかは外部にはうかがい知れないが、仮に問題があったとしても、これから改めれば良い話だ。実際は、「とにかく出光が出光家の会社でなくなるのは困る」ということだろう。

 

非上場なら、創業家が会社の支配権を主張するのは許される(少数株主の問題はあるが)。しかし、出光は2006年に上場し、創業家以外の株主が全体の約3分の2に達する。創業家の権利を主張するなら、上場前にしっかり議論しておくべきだった。創業家出身の最後のトップである出光昭介氏が2001年に会長を退いてすでに15年。「何を今さら」というのが世間の感想だろう。創業家と浜卓は“時代錯誤で利己的な困った人たち”である。

 

出光の経営陣は、時間をかけて創業家を説得する意向のようだが、どうだろうか。創業家と浜卓は別に法に触れることをしているわけではないし、ここまで思い切り拳を振り上げると、引っ込みがつかないに違いない。昭シェルとの合併は、事実上白紙に戻ったと考えるべきだ。

 

では、出光はこれからどうなるのか。個人的には、紆余曲折の末、コスモ石油と合併すると予測している。数年後、出光が独自路線で生き残れないことが明らかになり、株主や経済産業省から合併を促す圧力が強まる。国内資本のコスモなら企業風土が出光とそれほど大きく違わないし、コスモは近年経営体力が落ちているので、出光が合併後の経営で主導権を握ることができる。創業家が反対する特段の理由は見当たらない。ちなみに昭シェルは、来年JXと東燃ゼネラルが合併してできるJXTGに合流するのではないだろうか。

 

近年、派手な大型合併を繰り返す石油業界だが、経営改善の足取りを上回る猛スピードで市場環境が悪化している。合併が困難になった出光・昭シェルは言うまでもなく、合併に向けて着実に取り組んでいる各社も慢心せず、グローバル化・多角化・コスト競争力強化な経営改革に踏み込んでほしいものである。

 

(日沖健、2016年10月17日)