コンサル受注・失注の分岐点

 

コンサルタントとして独立・開業して何より問題になるのは、事業・生活を成り立たせるのに十分なコンサルティング案件を受注することだ。一昨日、中小企業診断士の集まりで「コンサル受注・失注の分岐点」と題するプレゼンをしたので、要点を簡単に紹介しておこう。

 

コンサルの受注に関し、世間では「ネットワーク(人脈)が決め手」と言われる。コンサルを受注するチャネルは、以下の4つである。

 

①学校時代の友人・会社時代の関係者・親類縁者などの紹介

 

②他のコンサルタントや受注機関の紹介

 

③過去のクライアントの紹介

 

④セミナー受講者・著書の読者・HP閲覧者からの直接の問い合わせ

 

成功したベテラン・コンサルタントだと③が増えるが、独立開業後の初期段階で一般に多いのは①と②である。なので、「ネットワークが決め手」と言われるのだろう。しかし、本当に「ネットワークが決め手」なのだろうか。

 

私事だが、2002年に独立して最初に獲得したクライアントは、会社時代の先輩の紹介だった。その後、気を良くして、学校関係・会社関係・友人関係・診断士仲間などネットワーク作りに励んだ。たしかに、ネットワークが広がるとともに引き合いは増えたが、その後なぜか失注が続いた。また、受注したものの、自分の得意分野でない、フィーが極端に安い、といった不本意な案件が増えた。

 

失注や不本意な受注が続き、「ネットワークが決め手」という通説に疑問を覚えた。見込みクライアントがネットワークの中にいるコンサルタントに声掛けするのは、おそらく次の3つの理由であろう。

 

「日沖さんにはちょっと義理があるから、声を掛けてあげようか。」

 

「コンサルタントを探すの面倒いなぁ。そういえば日沖って奴がいたから声掛けてみるか。」

 

「日沖さんならフィーを安く済ませそうだ。」

 

考えてみると、クライアントが抱える問題に合致したベストのコンサルタントがクライアントの身近なネットワークの中にいる確率は低い。ネットワークからの受注は、コンサルタントにとって苦労が多い割に効率が悪く、クライアントも満足度が低いのではないか。

 

ネットワークからの受注に疑問を感じていた2004年、ある公的機関から直接の引き合いが来た。この機関は、人材育成プログラムにケースメソッドを取り入れることを企画し、ケース作成やケースメソッドに関する専門家を探し求め、条件に合致した私に声を掛けたらしい。この経験で「コンサルタントはクライアントが探すもの」と実感した。そして、ネットワークよりも直接の引き合いを増やし、「探されるコンサルタント」になろうと決意した。

 

クライアントから探されるには、“自分自身の強み”と“探索しやすさ”を高める必要がある。他のコンサルタントと比較した私の強み・特徴は、大企業での勤務経験、経営企画部門の経験、MBA留学、ビジネス書・ケースを書ける、などである。この強み・特徴を生かすには、大企業の大型案件に的を絞るべきと判断した。

 

探されるようになるには、自分の専門性をアピールする必要がある。意識的に取り組んだことの一つは、大学院MBAコースの講師、もう一つはビジネス書の出版である。毎年1~2冊出版すること、とくに単著で出版することにこだわっている。

 

こうして、ビジネス書のテーマや大学院での授業科目に関連した直接の引き合いが増えていった。

 

ただ、大企業の大型案件では、個人コンサルタントが十分に対応できるのか、大手コンサルティング会社とどう差別化するのか、という問題がある。他のコンサルタントと協業するのは一つのやり方だが、リスクを考えると得策ではない。

 

結論としては、クライアントの問題とコンサルタントの専門性のミスマッチを埋められるかどうかが、受注・失注の分岐点である。ミスマッチを埋めるには、コンサルタントが歩み寄る(ネットワークを拡充する)か、クライアントが歩み寄る(コンサルタントを探す)か、どちらかだ。

 

独立開業直後の知名度がないコンサルタントなら、受注確保にはネットワークが決め手だ。しかし、クライアントから見て、ネットワークの中にベストのコンサルタントがいる確率は低い。コンサルタントが自分のやりたい仕事をし、クライアントが満足するためには、クライアントがベストのコンサルタントを探すべきである。

 

世間の常識とは異なる結論であるし、コンサルタントのあり方に絶対の正解はないが、皆さんのコンサルティング活動の参考になったら幸いである。

 

(日沖健、2016年9月26日)