国民の休日を減らすべきだ

 

今週8月11日は、新しい国民の休日「山の日」である。日本の国民の休日は、今回加わった山の日を含めて年間16日である。アメリカ10日、イギリス8日と比べて格段に多く、主要国で日本より多いのは中国だけらしい。ただでさえ国民の休日が多い日本に、また一つ休日が加わったわけだ。

 

山の日の導入が検討された当初は、山開きのある6月の第1月曜日に決まりかけていた。しかし、営業日数・授業日数が減ることを懸念する経済団体・学校関係者などの反対で、お盆に重なる8月11日に落ち着いたという。ただ、これだけ国民の休日が多いと、国民生活や経済に大きな影響を及ぼす。何月が良いかという以前に、そもそも国民の休日がそこまで必要なものか、根本的な検討が必要ではないだろうか。

 

どんな制度でもそうだが、国民の休日にはメリット・デメリットの両面がある。

 

国が想定するメリットは、企業・自治体などに勤務する労働者の休暇日数が増えることだ。休暇が増えることで国民の余暇が充実し、国民生活が豊かになり、サービス消費が増えて経済が活性化する――。

 

ただ、この一見もっともらしいロジックには、大きな落とし穴がある。

 

労働基準法によって、労働者には勤続年数に応じた有給休暇が付与されているが、有給休暇の取得率は48.8%(平成26年度就労条件総合調査)と低迷している。また休日出勤も多い。一方、日本以外の先進国では有給取得率が高い、というよりほぼ100%という国が多い。そのため、年間の総休暇日数で見ると、英米など先進国が日本を上回る。日本ではなかなか有給休暇の取得率が上がらないので、ならば国民の休日によって総休暇日数を増やそうというのが、国のねらいだろう。

 

しかし、仮に労働者が担当する業務量やその業務効率が変わらない場合、国民の休日の増加による労働時間数の減少を補うには、労働者は有給休暇の取得を抑制するか、残業することになる。日本では、すでに有給休暇の取得率は低いから、国民の休日が増えると残業が増える可能性が高い。さすがに大手企業はまじめに残業手当を払うだろうが、経営に余裕がなく、労働基準監督署の目が届かない中小・零細企業は、労働者にサービス残業を迫るだろう。

 

つまり、闇雲に国民の休日を増やしても、企業にとっては残業手当の負担が、労働者にとってはサービス残業が増えるだけで、返ってマイナスになってしまう。国民の休日を増やすだけでなく、企業・労働者が業務量を減らしたり、業務効率を高めたりするようインセンティブを与えられて、初めて国民の休日は労働者や企業にメリットが及ぶのだ。安倍政権が進める働き方改革への期待は大きいが、現状ではデメリットの方が大きいと見るべきだろう。

 

それよりも個人的に心配なのは、国民の休日が観光業と金融業の発展を阻害していることだ。

 

日本の観光地・観光施設の多くは、年末年始・ゴールデンウイーク・シルバーウィーク・お盆の4時期に需要が集中し、その他の時期は閑散としている。国民は宿泊料など値段が高い上に混みあっているピーク時を敬遠するので、全体的な観光需要は減少する。観光業者もピーク時に合わせて施設を用意すると年間の稼働率が低迷するので、施設の拡張投資を躊躇する。つまり、繁閑の差が大きいと全体として需要も供給も縮小してしまう。旅館の亭主はゴールデンウイークなどに「よし書き入れ時だ!」と小躍りするが、国民の休日は逆に観光業の発展を妨げているのだ。

 

金融業も、国民の休日で大迷惑を被っている。東京は、世界の主要市場で毎朝最初に開く圧倒的に優位な立地にありながら、バブル崩壊以降どんどん地盤沈下している。システム対応や規制緩和の遅れなど業界内の問題もあるのだが、休場が多くて使い勝手が悪いことも衰退の一因ではないか。つまり、市場関係者はリスクを恐れるので、何かあったときに場が閉まっていて売り逃げることができない東京市場(と上海市場)での取引を敬遠する。

 

国内の消費市場が縮小する日本で、アジアのインバウンド需要を取り込める観光業は希望の星だ。金はあるが働き手がいなくなる将来の日本で、金融業、とくにお金に働いてもらう資産運用は絶好の産業だ。国民の休日は、この2つの有望産業の発展を阻害する要因なのだ。

 

以上から、国民の休日を増やすのは得策ではない。逆に、世界で一般的なニューイヤーと建国記念日の2つを残して国民の休日を全廃すれば、サービス残業は減り、観光業・金融業が発展し、日本経済が復活する起爆剤になるように思う。

 

(日沖健、2016年8月11日)