英国EU離脱、世紀の勘違いはなぜ起きたか

 

先週、イギリスでEUからの離脱の是非を巡る国民投票が行われ、離脱が決まった。最終的な得票率は、離脱51.9%、残留48.1%という僅差であった。

 

選挙戦は最後まで予想が割れる大接戦だったが、株式市場では17日以降、次第に残留を見込む楽観的な予想が増え、開票前の1週間で日経平均が800円以上も上げる堅調な相場だった。24日朝にはブックメーカーの残留確率が90%を超え、市場関係者が「勝負あった」と信じていただけに、まさかの結果を受け、日経平均は1日で1286円下げる歴史的な暴落となった。“世紀の勘違い”と言っていいだろう。

 

今回、プロの市場関係者の予想は、なぜものの見事に外れたのだろうか。色々な理由がありそうだが、個人的には以下の3点が気になる。

 

第1に、マスコミの偏った報道を鵜呑みにしてしまったようだ。マスコミは、自社の駐在員がいて取材しやすいロンドン市内の様子を繰り返し伝えていた。あるテレビ局は24日朝、ロンドンから「10人中8人が残留に投票」という出口インタビューの結果を紹介していた。しかし、ロンドンは残留のメリットが大きい金融関係者など残留支持派が多く住む特殊な地域だ。市場関係者は、ロンドンがイギリス全体とは大きく異なることを十分に認識していなかった。

 

第2に、2013年に行われたスコットランドのイギリスからの独立を巡る住民投票の経験を意識しすぎたようだ。スコットランドの住民投票では、独立による主権回復と経済力低下が争点になり、事前の予想では大接戦だと言われたが、蓋を開けると残留派の圧勝だった。国と地域ではレベルが違うし、EUへの不信感の高まりというその後の変化があったにも関わらず、市場関係者は「同じイギリスの話しだし、争点も同じだから、今回も同じ結果に落ち着くのでは?」と考えていたフシがある。

 

第3に、とくに日本の市場関係者は、17日に残留派の女性議員が暗殺された影響を過大評価したようだ。日本では1980年の参院選で、劣勢だった自民党の大平首相が選挙戦の真っただ中に急死し、「弔い合戦」を連呼して同情票を取り込んだ自民党が地滑り的に大勝した。日本の市場関係者は、女性議員の暗殺で国民投票の風向きが完全に変わったと思ったが、イギリス人は「それはそれ、これはこれ」ということで、日本人のように情緒的ではなかった。

 

これらの理由に、「残留して欲しい」という願望や「勝ち馬に乗る」という群集心理も加わり、楽観が市場を支配した。各種世論調査は五分五分なのに「残留で決まり」と決めつけ、“世紀の勘違い”となった。

 

株式投資でも、企業経営でも、必要な情報を入手し、分析し、意思決定するというプロセスは同じだ。上記の考察が正しいとすれば、“世紀の勘違い”から得られる投資や経営への教訓は、以下の3点である。

 

第1に、情報の前提や出所を疑うべきだ。どんな調査にも前提条件や癖があり、対象の取り方や調査方法の違いなどから、結果が実態からかい離してしまうことがある。調査結果を見るとき、「どういう前提に基づく調査なのか」を自問すると良いだろう。

 

第2に、過去の出来事は忘れて事実を直視するべきだ。「歴史は繰り返す」と言われるように、私たちは過去が繰り返すと考えがちだが、変化の激しい時代には、まったく違った展開が起こりうることを想定すると良い。

 

第3に、他人が自分と同じ考え方をすると思いこまないことだ。私たちは「同じ人間だから大きくは同じ」と考えがちだが、特に外国人は日本人と違った考え方をすると思った方が安全だろう。

 

今回残念なのは、24日以降、市場関係者から“世紀の勘違い”に対する反省が聞こえてこないことだ。さすがに「離脱を予想していた」と虚勢を張る関係者はいないが、離脱リスクを軽視したことを後悔するだけで、上記のような分析はない。何事も、間違いを直視し、原因を分析し、反省することなしに、未来の進歩はないのではなかろうか。

 

ちなみに、私は今回、“世紀の勘違い”を起こさずに済んだが(6月23日ブログ)、たまたま当たっただけで、過去にはリーマンショックの時など変化を読み誤って手痛い失敗を犯している。今回のまぐれに慢心せず、投資家あるいはコンサルタントとして予測能力・意思決定力を高めたいと思っている。

 

(日沖健、2016年6月27日)