同族企業は本当に優れているのか?

 

このところ、低迷する日本経済を救う救世主として、同族経営やファミリービジネスが注目を集めている。同族経営とは、特定の親族などが支配・経営する組織のことを指す。ファミリービジネスもほぼ同義である。

 

かつて、同族経営の企業(同族企業)には、「閉鎖的」「ワンマン経営」「前近代的」という負のイメージが強かったが、すっかり風向きが変わった。日本だけでなく世界的にも、イタリアのファッション・ブランドなど個性的な同族企業が注目を集めている。

 

経営学の世界でも、同族経営に関する研究が近年盛んに行われるようになっている。同族経営を肯定する研究も否定する研究もあるが、他の研究を整理した研究(メタアナリシス)では、同族企業の方が非同族企業より利益率も成長率も平均して高く、同族経営が優位だと結論付けているものが多い。

 

同族経営は所有者である創業家と経営者でビジョンが共有できているため、一枚岩になりやすいというメリットがある。他にも経営者の機動的な意思決定などが優位性をもたらすと言われる。

 

かつては批判の対象だった同族経営が礼賛されている状況だが、本当に同族企業は優れているのだろうか? 過去の研究に盲点はないのか?

 

同族企業と非同族企業の大きな違いは、コーポレートガバナンスが効いているかどうか、財務体力があるかどうか、の2点である。

 

同族企業では、所有者=経営者なので(オーナー経営者)、所有と経営の分離を前提に株主が経営者をどうコントロールするか、というコーポレートガバナンスの議論が当てはまらない。コーポレートガバナンスが効かない同族企業では、無謀な新規事業など過度なリスクテイクや不祥事が起こりやすい。また、同族企業は一般に非上場で、市場からの資金調達が制約されるので、財務基盤が弱い。

 

ガバナンスが効かない同族企業は、業績の振れ幅が非同族企業よりもはるかに大きいだろう。セコムのように、オーナー社長が思い付きで始めた事業が大当たりして飛躍的に発展・成長する場合もあれば、事業の失敗や不祥事でつまずくこともある。そして、失敗すると、財務基盤が弱いので簡単に倒産してしまう。

 

一方、非同族企業は、コーポレートガバナンスやリスク管理がしっかりしているので、大きな失敗をすることは少ない。その代わり、大胆なリスクテイクをしないので、劇的な成功を収めることも少ない。また、財務体力があることや東京電力のようにToo big to fail(大きすぎて潰せない)として政策支援があることから、大きな失敗をしても簡単には倒産しない。

 

私の知る限り過去の研究は、調査対象時点でこの世に存在している同族企業と非同族企業を比較している。失敗した同族企業はすでにこの世に存在せず、成功して生き残った同族企業とシャープのようなゾンビ企業を含めた非同族企業を比較すると、平均では非同族企業の方が優れている、という結論になってしまう。

 

正しい分析をするには、倒産した企業も含めて全企業を比較する必要があるのだがが、おそらく技術的に不可能だろう。単なる私のリサーチ不足かもしれないが、こうした問題意識の下に行われた研究は存在しない。したがって、同族経営と非同族経営のどちらが優れているか、という問いに対しては「よくわからない」としか言えないことになる。

 

結局、同族企業と非同族企業では、経済に対して果たす役割が違うということだろう。同族企業は、大胆なリスクテイクで抜本的なイノベーションを主導する。非同族企業は、豊富な経営資源と確立されたビジネスシステムで漸進的なイノベーションを主導する。最悪なのは、同族の利益を守ることに終始し、イノベーションの創造に取り組まない同族企業だ。同族経営を礼賛する風潮によって、非効率な同族企業が温存されるなら、たいへん不幸なことだと言えよう。

 

(日沖健、2016年4月18日)