動物愛護は重大な経営リスク

 

去る3月17日、米国の海洋テーマパーク「シーワールド」が、今後シャチのショーを廃止し、シャチの繁殖も終了すると発表した。シーワールドは長年、動物愛護団体からシャチのショーが残虐であると抗議を受けており、今回の決定に至った。

 

日本では、このニュースはそれほど話題になっていないが、動物愛護団体の活動は欧州を中心に世界的な広がりを見せており、将来、日本でも多方面に甚大な影響を及ぼしそうだ。

 

まず、直接的に影響が及びそうなのが、鴨川シーワールドなど全国の海洋テーマパークだ。海洋テーマパークでは、シャチやイルカのパフォーマンスが人気を集めているが、いずれ中止に追い込まれそうだ。動物園のショーも同じ運命だ。

 

経営が立ち行かなくなる海洋テーマパークや動物園には気の毒だが、この辺りで動物愛護団体の抗議が鎮静化してくれればラッキーだ。海洋テーマパーク・動物園など生きた動物を使用するビジネスだけでなく、多くの企業が動物を使用した商品の製造・販売中止に追い込まれるだろう。

 

ドイツのメルセデス・ベンツは、一部の車種でシートに革を使うのを止めると発表した。それほど遠くない将来、衣類や装飾品から毛皮製品が姿を消すだろう。ペットを室内で飼うのも立派な動物虐待なので、ペットの飼育も大幅に制限される。法律で禁じられなくても、動物愛護団体からの批判を恐れて、著名人や社会的に地位のある人は誰も毛皮を着なくなるし、ペットを飼わなくなる。現在日本では週刊誌が著名人の不倫を暴く“不倫狩り”が流行だが、十年後には“毛皮狩り”“ペット狩り”が流行しているかもしれない。

 

個人的には毛皮にもペットにも興味がないので、ここまでは問題ないが、食品にまで話しが及ぶとやっかいだ。すでに米マクドナルドは、ケージ(かご)で飼育された鶏が生んだ卵を使用しないと発表している。動物愛護団体からケージを使った飼育は動物虐待だとの批判を受けての措置だ。

 

やがて飼育方法だけでなく、動物を食べることそのものが問題視されるのではないか。IKEAは、昨年から店内のレストランで動物関連食品を使わないミートボール(ベジボール)の提供を開始した。この流れだと、やがて肉を使ったミートボールが販売中止になる可能性がある。将来、IKEA以外でもこうした動きが広がり、すべての動物を食べられなくなるかもしれない。そうなると、食品・外食・小売りを中心に経済に深刻な影響が広がりそうだ。

 

多くの日本人は、シーシェパードに代表される動物愛護団体が大嫌いなので、こうした恐怖のストーリーを「勘弁してよ」と嫌悪し、「さすがにそこまではならないでしょ」と楽観的に考える。ただ、日本人の気持ちがどうであれ、欧米でビジネスを展開するグローバル企業は、ベンツ・マクドナルド・IKEAのように動物愛護団体の意向を無視できない。グローバル企業が右を向けば、国内の中小企業も右を向かざるを得なくなる。企業は、動物愛護団体の活動を重大な経営リスクとして注視する必要があるだろう。

 

動物愛護だけでなく、近年、企業は社会問題に対して批判・反論できない、自由に意見を言えない、なんとも重苦しい雰囲気に包まれている。

 

たとえば、昨年から注目を集めているLGBTについて、不当な差別はいけないが、「当社の商品コンセプトはLGBTには合わない」と考える企業があっても良さそうなものだ。しかし、そういうLGBTに対して否定的な意見をまったく耳にしない。将来、人権保護団体から「LGBTを一定数以上採用しない会社は反社会的だ」「男性用・女性用のトイレしかない職場は違法だ」と指摘されたらどうか。動物相手でもまともに反論できない状況だから、まして人権を持ち出されると、企業は黙って従うしかないだろう。

 

企業が利潤を求めて自由に活動することで、新しい価値がもたらされ、社会が発展する。自由な企業活動、そのための自由な思考と発言は、社会が発展する原動力だ。動物愛護団体の影響で一番怖いのは、毛皮が着られなくなることでも、ステーキが食べられなくなることでもなく、企業が自由に考え、自由に発信することができなくなることだ。

 

(日沖健、2016年3月28日)